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「あれ、乱太郎君怪我してない?」
状況を理解して少し落ち着けば周りもよく見えてくる。さっきまで気付かなかったが、乱太郎は手を軽く擦りむいていた。
「本当だ。さっき転んだ時のじゃない?」
「乱太郎、保健委員なのに自分の怪我に気付かなかったのかよ?」
「あははは。走るのに夢中で気付かなかったみたい。」
暢気な事を言いながら頬をかく乱太郎だが、ここは室町時代。現代と違って少しの傷でも菌など入れば治療は困難だろう。ましてやここは山中。衛生状態は更によくないはずだ。
「乱太郎君、手だして。」
鞄からペットボトルの水とタオル、絆創膏を出しながらそう言えば、三人ともきょとん、としている。
「それ何ですか?」
「見たことないものばっかり。」
並べたものを不思議そうに眺める三人に、後で説明することを約束して。
「とにかく手当てが先ね。素人で悪いけど、ほっとくとばい菌が入っちゃうから。」
「そんなことないです。あの、じゃあお願いします。」
そう言いながら乱太郎はおずおずと手を差し出した。
まずはペットボトルのミネラルウォーターで傷口を洗い流し、傷口に触れないようにある程度の水気をタオルで拭ったら、軟膏を塗って絆創膏で傷口を覆う。
「これでよし。応急処置だから後でちゃんとした人に見て貰ってね。」
「ありがとうございます…///」
にこり、と笑った名前に乱太郎の頬がほんのり染まる。
手当てが終わると、待ち構えたようにきり丸が声をかけてきた。
「名前さん!乱太郎の手当てに使った道具は南蛮ものですかぁ!?」
きり丸は目が銭になっている。彼らにとっては珍しいものばかりだから、南蛮ものだと思ったのだろう。とりあえず今ここで未来のものです。なんて言ったら訳が分からないだろうから、どういう道具か、ということだけを説明する。
「この容れ物はペットボトルっていって中にはきれいな水を入れてあるのよ。こっちはタオルでまあ手拭いみたいなもの。で、手に貼ったのが絆創膏といって傷口を保護するお手軽な包帯ってとこね。」
ざっと説明し終わると目をキラキラさせた子供たちが私を見上げていた。
「「名前さんすごぉい!」」
声を揃えて私を見上げる乱太郎としんべヱ。
(あれ、一人足りない?)
「………こらこらこら。待ちなさい。」
視線を巡らすと、名前が手当てに使った道具を懐に入れようとしているきり丸が映った。