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医務室での騒動から数時間後、名前は当座の寝泊まり用に、客室へ通されていた。湯を借りて入浴を済ませたので肌の手入れをしよう、と鏡を覗き込んでぎょっとする。
ここに映っているのはだれ?
自分だと解るくらいに面影はあるのだが、はるかに垢抜けているその顔にたじろぎながらも恐る恐る自分の頬に触れてみると、鏡に映る人物も同じ行動をした。
「………っ!」
なに?どうして顔が変わっているの?
混乱の渦にのまれそうになる中、この世界に来る前の出来事がフラッシュバックする。
「お前の願いは今しかと叶えた。よって代償を頂く。」
「私は神だから叶えられるのだ。代償はこの世界でのお前の命を貰い受ける。」
「この世界でのお前は願いを叶える代償に命を失う。だから願いが叶えば別の世界で新たな人生を送ってもらう。」
!
慌てて自身の身体も確認すると、馴染みのない立派な膨らみが見えた。無駄なものなどないすっきりとした肢体は、同性でさえ恍惚としてしまいそうに美しいもので。
ああ、これが今の私の身体なのか。
忍たま達がこの容姿を口を揃えて褒め讃えていたことに漸く納得した。
馴染みのない身体が恐ろしい訳ではない。身長は変わっていないし、お金があればいつか整形してみたいと思っていた位だし、かつての自分の面影もしっかりと残っているし、何よりずっと望んでいた容姿になれたのだから、違和感などで気が狂ってしまう事はない。だがそれは一つの事実を突き付ける材料となってしまう。
「この世界でのお前は願いを叶える代償に命を失う。だから願いが叶えば別の世界で新たな人生を送ってもらう。」
ああ
私は死んでしまったのか。
初めて感じた絶望に打ちひしがれ、身体の力が抜けてゆく。もう会えないだろう家族や友人は心配しているだろうか。向こうの世界で自分の身体は死体として残っているのか、消失したのかさえも解らない。せめて別れの言葉を残せていたなら。
「っさよならも、いえなかった……っ」