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「みんなおかえりー」
間の抜けた声で迎えたのは忍術学園の事務員である小松田秀作だ。
「ただいま帰りました、小松田さん。」
学園に入るなり入門票へのサインを求められ、伊作は苦笑しながら筆を滑らせる。
「この方は先に医務室に運びたいんですけど、乱太郎としんべヱから話は聞きましたか?」
「うん。二人は先に医務室に行ったみたいだよ。」
名前のサインは後で医務室に貰いにくると言う小松田に頷き、既にサインし終わった後の三人と連れ立って校舎の中へと進んだ。
校舎に入るなりあちこちから視線を感じた。
「…明らかに注目浴びてるな。」
「予想はしてたけどな、丁度長屋に戻る生徒とかちあう時間だし。」
「まあ注目の原因は解ってるけどね。」
三人の視線は名前に注がれる。人を担いでいるだけでも目立つのに、それが見たこともない着物を着た女の子で、色白で綺麗な手足が覗いているのだ。庶民には到底見えない彼女に、忍たまたちの視線が集中するのは解りきっていたことだった。
「きり丸?」
無言の彼を不信に思って伊作が声をかけると、彼の視線の先を見てああ、と納得する。
名前は現在久々知に横抱きにされており、周りの忍たま達からも顔が確認できる。 目を閉じていてもなお美しさを感じる顔は、長い睫や流れる黒髪に彩られ、より一層輝いている。幼い顔立ちをしているので可愛さの方が上回るが、だからこそ下級生でさえも惹かれるのだろう。そんな彼女の顔に見惚れてしまう忍たまも少なくないわけで。つまり、それに気付いたきり丸は、頬を染める彼らを不機嫌そうにして見ていた。
(君は今自分がどんな顔をしてるか気づいてるのかな?)
「こりゃ兵助も先輩も前途多難ですね。」
同じくきり丸の様子を察した竹谷が茶化す。
「なっ!?俺はそんなんじゃ、」
「だからそういう意味で見てないんだってば!」
揃って赤面する二人が可笑しくて、竹谷は笑った。