top > gift > 心配になるんです


「え、その格好で行くの!?」
「何か問題あんのか?」
「問題、って言うか…うーん」


門の前で待ち合わせていた人物、きり丸くんの格好を見て私はつい思ったままに問い掛けると、不満そうな表情をされ苦笑を浮かべる。
きり丸くんは、2年生の頃から私の家の団子屋に何度かアルバイトとしてやって来ているのだけど、それはいつも女の子の格好をしてだった。なのに、今日のきり丸くの格好は女装なんてしてなくて、普段と変わらない男の子の格好だったのだ。私のお父さん、きり丸くんのこと女の子と勘違いしてるみたいなんだけど……大丈夫、かな。


少しの不安を抱えながら家へと帰ると、案の定お父さんはきり丸くんの姿に驚いて持っていたお茶をひっくり返した。


「随分と背の高い子だと思ってはいたんだけどなぁ」
「おばさんはけっこう前に気付いてましたよね」
「それはそうよー。きり丸くん、3年生の時 声変わりしたでしょう」

すぐに解ったわと自慢げに言うお母さんの隣で、落ち込むお父さんを励まそうかと背中に手をやった時 ガッシリとお父さんに手を掴まれた。


「ど、どうしたの お父さん」
「名前、きり丸くんとはどういった仲なんだ?」
「は?、と 友達だよ何言ってるの」

突然何を言い出すのかこの父は、どういった仲も何も…今まで何度も会っているのに、しかも本人のいる前で本当に何てこと言うんだと、慌てて返した私に きり丸くんはニカりと笑った。あ、嫌な予感


「将来は団子屋の店主ってのも悪くねーな。なぁ、名前」
「、っ! 」
「何言ってんのきり丸くん」


きり丸くんの言葉を聞いた途端に顔を青くするお父さんと、それを見てまた笑うきり丸くん。私は大きく溜め息を吐き出して、2人をそのままに店の手伝いを始めることにした。


「お姉さん、団子3本とお茶もらえるかい」
「はい ただ今」

人の良さそうな笑顔を浮かべた男性から注文を受けて、一度奥に引き返そうとした時ふいに手を掴まれた。振り向けば注文を受けたばかりの男性で、まだ何かあるのかなと首を傾げつつ用件を尋ねたのだけど、男性は何も言わずに笑っていた。思いの外しっかり掴まれた手は振り解けず、顔色一つ変えないその人に対してだんだんと恐怖が浮かび上がってきた時、パッとあっさり手が放された。
視線を上げれば 私とお客さんとの間にきり丸くんが立っていて、お団子とお茶の乗ったお盆をお客さんに差し出していた。


「はいよお客さん、団子3本とお茶お待ちどーさん」
「、きり丸くん」
「それとお客さん 此処は見ての通り団子屋だ、女買いたきゃ他あたりやがれ」


私でも聞いたことのないぐらいの低い声で発せられた言葉に、その人はさっきのお父さんよりも顔を真っ青にしたかと思えば、物凄い早さでお金を置いて走り去っていってしまった。

「まいどありー、なんつって」

後ろにいた私からは きり丸くんの顔が見えなくて、どんな顔をしていたのか全く解らないけど、振り向いた時のきり丸くんは八重歯が見えるいつもの笑顔だった。


「、あ ありがとう きり丸くん」
「……やっぱ女装のが良かったかもなぁ」
「 え?」
「俺が女装したら、名前に手を出そうなんて誰も思わねーだろ」
「ど、どういう意味!?」
「そのまんまの意味ー」


ケラケラ笑って他のお客さんの所に行ってしまったきり丸くんを眺めていると、ぽんぽんと肩を叩かれ 驚いて振り向けば真面目な顔をしたお父さんだった。


「お父さんは、きり丸くんなら大歓迎だぞ」
「だから何言ってるのお父さん」


それから暫くの間お父さんの勘違いは止まらず、きり丸くんに名前はおじさん似だなとまで言われた。何処がと聞いても、きり丸くんは答えてくれなかった。



心配になるんです
だって君は素直だから

―――――――――
いち。の伊空さんより。
5万打企画で1は連載番外をリクして書いて頂きました。きり丸が格好良すぎて…!ほのぼのしつつもきゅんとする素敵なお話で、胸がほっこりします。伊空さんありがとうございました。

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