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「名前ー、今日の午後に前に言ってたお団子屋さん行かない?」

『あーごめん、私今日委員会の臨時任されてるから行けないや。みんなで行ってきてよ』

「そう?じゃあお土産買ってくるから。委員会頑張って!」

『ありがとう』


姿勢正しく箸を口に運ぶ俺の真後ろから聞こえた会話。くのいちの、名字名前ちゃん。俺が今すごく気になっている女の子だ。

同じ学園の生徒だからっていつも会えるわけでもなく、寝坊して一人慌ただしく飯を掻き込んでいた俺が今日会えたのは本当に、すごい偶然だ。奇跡だ。

しかもこんながら空きの食堂で俺の後ろの席とか、もう、嬉しすぎて。ニヤけるのを堪えるのに必死で、そんな俺に、そんな会話が舞い込んだのは、奇跡を通りすきて天地がひっくり返るほどの大ニュースだった。







午前の授業が亀の行進みたいな遅さで過ぎた後、俺はダッシュで部屋に戻り、目当ての物を取ったあと弾けるように目的の場所に向かった。…名前ちゃんに会えるぞ……!

嬉しい気持ちと焦る気持ちが相まって、目の前まできた扉をスパーン!と開けるとそこは一面に書物が広がっていて、


『…竹谷くん、図書室では静かにしてください』


カウンターで虫食い文字の解読をしていた名前ちゃんに注意されてしまった。…やってしまった、


「す、すみません…」


俺はすぐに彼女に謝って中に入る。………え、そういえば今俺、普通に話した…?

カァッ、と顔に熱が集まるのを感じながらも、俺はギクシャクとカウンターにいる名前ちゃんのもとへと足を進めた。


『…ふふっ、そんなに緊張しなくても大丈夫だよ、』

「あ、いや…ぇっと、…これは別に」

『今日は図書委員長がいないの。多少音を立てても大丈夫よ、注意で終わるわ』

「あ、はい…」


もしかして、俺が名前ちゃんを好きな事が知られているのかと思ったが勘違いだったらしい。俺は心の中で安堵しながらも部屋からもってきた本をカウンターに置いた。


「これ、返します」

『毒虫の本…まだ期限あるけどいいの?』

「もう読んだから」


そう確認した名前ちゃんは解読作業を止め、手続きを始めた。…借りた初日に読み終えててよかった、まさかこんな運の良い日がくるなんて!


『……』

「…」


黙々と作業をする名前ちゃんに俺の心拍数は上がりっぱなし。図書室は本当に静かで、俺の心臓の音は丸聞こえなんじゃないかって思えてくる。

せっかく名前ちゃんと向かい合ってるんだ…何か話したい…!!少しでも仲良くなりたい一心で、俺は口を開く。


「あの、さ。名前ちゃ「あれ、ハチじゃない。どうしたの?」


そんな時にタイミング良く現れたのは書物を抱えたクラスメイトの不破雷蔵。こいつは俺の決死の声かけを無惨にへし折ったのだった。

……雷蔵…邪魔すんなよ…!あとちょっとだったのに…!!


「……………借りてた、本をな、…返しに、」


あの雷蔵の事だ。悪気はないのは分かってる。分かっているからこそ、文句の一つも言えないのが悔しい。


「あー、そういえば毒虫をもっと覚えたいって借りてたね、」


生物委員長代理も大変だねーなんて言いながら当たり前のように名前ちゃんのすぐ傍に座る雷蔵。そのまま持っていた書物の修復作業を始めた。


「名前ちゃん、今日はありがとう。急に悪かったよ」

『ううん、雷蔵が気にすることじゃないよ。長次先輩がいないんだもの、仕方ないわ』


相手の顔も見らずに飛び交う会話。それは生物委員の俺が入れるような内容じゃなくて。


「…っ、」


う、羨ましい…!

素直にそう思った。…同じ図書委員ってこんなに仲良いのかよ!お互い名前で呼び合ってるし、…中在家先輩も名前で呼ばれて……俺だって名前で呼ばれたい!


『竹谷くん?』


そんな事を黙々と考えていたから、名前ちゃんの呼びかけに一拍反応が遅れた。


「っ、…なに?」

『返却手続き終わったけど、』

「…あ、あぁ…ありがとう」


もう帰らなきゃ。もう少しまともに話したかったな…、なんてぼんやり考えながら名前ちゃんにお礼を言うと、彼女はそのまま俺に話しかけた。


『さっき何て言おうとしたの?』

「え?」


…雷蔵に邪魔された時のか?あの時は話すことに必死だったからなにも…、

なんて考えていたらふと名前ちゃんが脇に置いた書物に目がいった。


「あー、えっと…名前ちゃん忙しそうだし…、俺も解読手伝おうか?」

『え?』


俺の台詞に驚いたように目を見開く名前ちゃん。同じ五年生なのに俺よりすごく大人びている彼女と目が合うたびに顔に熱が集まる。


「…っと、毒虫を探す時もそうだけど人数は多い方が早く終わるだろ?……だから…」


あーもう!俺は何を言っているんだ!

頭の中がパンクしそうなくらい熱くて、ぐるぐるしながら発言してたらだんだんと声が小さくなってくる。なんて格好悪いんだ自分…。

いつもの調子がでないもどかしさに情けなくなっていると、名前ちゃんは申し訳なさそうに口を開いた。


『…気持ちは嬉しいんだけど…ごめんなさい、あとはこの巻物だけだから』

「ぁ、そうか…。……」


本当、何やってんだ俺、

情けない!!


『……』

「…」


ここはもう大人しく帰るか?いやでも待てよ、名前ちゃんばっかりで気づかなかったけど、雷蔵の方が量あるしすごい大変そうだな…。

名前ちゃんは仕方ない。いっちょ雷蔵を手伝うか、なんて考えている俺の頭に響いた大好きな声。


『…手伝ってくれるなら、向こうにいる一年生たちの書物整理に付き合ってくれない?』


それだけで、俺の次の行動は決まった。


「任せとけ!」


名前ちゃんとはいられないけど、名前ちゃんの助けになれる事が無性に嬉しい。俺は鼻歌混じりに図書室の隅へと足を向けたのだった。




「……解読しなきゃいけない書物まだ五冊はあるくせに」

『……』

「…名前ちゃん、ハチにはもう少し優しくしてね?」

『……竹谷くんにずっと追われたいのよ』

「………やっぱりくのいちは怖いなぁ、」

『だって好きなんだもの。どうしようもないわ』


怪しい笑みを浮かべる名前ちゃんと苦笑いの雷蔵が、まさかそんな話をしているなんて想像もつかずに、俺は一年生と共に書物の整理を張り切って始めるのだった。



「終わったー」
『お疲れさま、ねぇ竹谷くん』
「ん?」
『今日友達がお団子買ってきてくれるんだ。お礼も兼ねて、一緒に食べない?』
「!!…食べる!一緒に食べよう!」
『…ふふっ、』
「名前ちゃん嬉しそう」
『…雷蔵うるさい』



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すンちゃんから相互記念にいただきました。青春しちゃってる純情竹谷に胸がきゅんきゅんです。竹谷に追われたいという私の心情を見事にキャッチしてくれました。素敵な夢をありがとう。

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