誰のために
今だって藤内にぶつかっている作兵衛は僕らのことをアホのは組、なんて呼んだことがないし、吸収できることがあれば下級生からでも学ぼうとする作兵衛に僕は密かに憧れの念を抱いている。心から僕らのことを思ってくれる友人を僕ら二人は愛さずにはいられない
「作兵衛、僕は大丈夫だよ。それに忍は非情、これは藤内が感傷を殺す訓練にもなると思うんだ。ね?」
「そんなの人じゃねぇ」
「僕達は人じゃない、忍だよ」
それきり作兵衛は黙ってしまった。…子供のような、随分と不満そうな顔をして。藤内はずっと僕達を黙って見ていた。
「だって忍は汚れなきゃ、陰なんだからさ。いきなり非情にはなれないんだから今からちょっとずつ慣らさないと。仲間だって裏切ったら処分しなきゃいけないんだ、し…」
自分で言った処分という言葉に気づけば勝手に涙が出ていた。
数馬、と藤内が口を開きかけたけど、その前に作兵衛がぺちん、と軽く僕の頬を叩いて抱きしめてきた。…ちょうど迷子の二人を見つけた時のように。
「ばかやろう」
「数馬、ごめんね」
藤内までもが後ろから抱きしめてきて、僕はさながらどら焼きのようになってしまった。…ちょっと恥ずかしい…
「そんな型にはまったモンはつまんねぇ」
ぎゅう、と。
嬉しかった。僕のために怒ってくれる作兵衛が。僕に一番いいやり方を考えてくれる藤内が。
悲しかった。
藤内が気づけた罠にはまる自分が。それを不運のせいにしようとする心の片隅の消えない弱さが。藤内にそんな顔をさせてしまう自分が。作兵衛みたいな生き方が出来ない自分が。
…そしてそんな僕を見捨てずにいてくれる友人にもらうばかりの自分が。
迷子の僕の心を見つけてくれるのはいつも作兵衛だ。迷子の僕の心に選択させてくれるのは藤内だ。じゃあ僕はなんだろう。僕は君達の何になれるだろう
じゃあ僕は薬になる。風から守る壁でも、雨から守る屋根でもなく。傷ついた仲間を癒やす薬になりたい
孤独な孫兵の心を、まっすぐな作兵衛の心を、考えすぎる藤内の心を、傷つきやすい左門の心を、理解されがたい三之助の、傷ついた心を癒やす薬になりたい。