些細なおしゃべりで、笑う


今年の夏は異常なまでに暑い。

いつもより蒸し暑く、生温い風が吹く今日。

アイスを賭けて始めた山さんとのジャンケンで

見事、山さんに負けた俺となまえは学校近くのコンビニへ。

行きは俺もなまえも元気で

話をしたりジャレながら歩いていたけれど

帰り道は自然に2人とも口数が少なくなるし歩幅も狭くなる。

(せっかくのチャンスなのに)

「あ、なまえ」

「なーに、利央」

「目の前のオッサンの頭、見ててみ?」

「あのスーツきっちり着てる人?」

「そ、じっくり見ててみ?(あいつ絶対、カツラだ)」

俺となまえの前を

クールビズって言葉を知らないのか!と言いたくなるくらい

きっちりとスーツを着ているオッサンが歩く。

生温い風が俺たちの間を通り抜ける。

「何も起こらないよ?」

「まぁ、見てなって!」

少し強い生温い風が吹いて

なまえが片手でスカートを押さえると

それと同時に前を歩くオッサンの毛が吹っ飛んだ。

「あ!利央、毛が消え、むがもごっ!!!!」

「ダメ!それ以上言うな!!」

驚きのあまり声に出しかけたなまえの口を左手で塞いで

「ちょっと、早歩きするぞ」と呟いた。



*  *  *  *  *  *  *  *



人がいない道までやってくると

お互いの顔を見て笑った。

「ビ、ビ、ビックリしたー!」

「うわ、ムービー撮っとけば良かった!!」

あんなに豪快に飛んでくなんて!アハハハー!!

隣で大きな目に涙を溜めてなまえは笑った。

(可愛い)

ドキドキとその笑顔に俺の心臓は早く動く

あー笑った、と笑い終えたなまえは

目に溜まった涙を人差し指でぬぐって

「帰ろっか!」とまた笑った。

「よし!帰るか!!」

それに俺も笑顔で返して歩き出した。

ふと、その時に気づく。

「あ゛ー!」

「どうしたの?って、あー!!」

俺が持っていたビニール袋に入ったアイスが

元の形からひどく変形していて

「どうしよう利央!山さんに殺される!」

「と、とりあえず、走るぞ!!」

空いた手でなまえの手を無意識に掴んで

俺となまえは学校に向かって走り出した。



些細なおしゃべりで、笑う

(ドキドキは、まだ高鳴る)


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