あと少し


静かな教室放課後じゃなくて、早朝の学校。

「ね、水谷」

「なに??」

「何?じゃないよ」

たまに教室の前を生徒が通ったり

先生が通ったり静かだった廊下が徐々に騒がしくなってくる。

「そろそろ、離して??」

「いや」

そんな中、俺は彼女のなまえを抱きしめたまま10分ぐらい、離さないでいる。

「皆、きちゃうよ??」

「いいよ、別に。」

腕の中で小さく動きながら、なまえがポケットから携帯を取り出した。

多分、他のクラスの奴に「助けろ」とメールを送るつもりだろう。

(この前は、それのおかげで俺となまえの甘い時間が終わったんだ!! )

「あ、携帯かえしてー!!」

「だめ、またメールするだろ」

ひょいっと取り上げて、俺の後ろにある机の上に置いた。

ブスッと頬を少し膨らして、俺の腕から逃げようとするなまえ。

「あー逃げないで、お願いだから。」

ギュッと抱きしめる力を強めて、俺はなまえの肩に顔を埋めた。

「ね、水谷文貴君。」

「なに??( 何でフルネーム )」

「何かあったんですか??」

「何もないですよ」

嘘、本当はあったんだよ。

なまえは気付いてないかもしれないけど

俺、花井や阿部に凄い嫉妬してんだよ。

仲良く話してさ、楽しそうに笑って…

部活の時だってそうだ。

田島や泉や栄口や最近では、浜田にだって

俺は、恥ずかしいぐらいに嫉妬してんだよ。

だから、二人でいれる今ぐらい

「あと、少し。」

「ん?何か言った?」

あと、少しだけでいいから

「あと、少しだけこうさせといて」

こうやって、君を抱きしめさせてください。

「わかった、あと少しだけね?」

そう言ったなまえの腕が俺の腰に回ってきた。

「あーもう、大好き。」

「はいはい、私も大好きですよ」


あと少し。

(少しだけって言ったのに、離してくれたのは10分後だった。)


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