01
息苦しさを感じて目を覚ますと
視界一杯に愛しい彼女が映った。
カーテンの隙間から漏れる朝焼けの陽が彼女を照らし
キラキラと黒い髪が光って綺麗だ。
「おはよう、なまえ」
俺の上に覆い被さるなまえの頬に手を伸ばして
手の甲で撫でればピクッと小さくなまえは肩を震わせた。
まだ、息は苦しい。
「どうしたの?」
いっこうに口を開かないなまえを不思議に思い
そう問えば彼女は辛そうに眉間に皺を寄せて小さく言った。
なんで助けた、と。
「君を助けたかったから、じゃダメかな?」
「質問に、質問で、返さ、ないで」
また少し息苦しくなる。
街中を逃げ回っていたなまえを助けて
家に匿った時点で初めから想定していた事だけど
思ってたより苦しい…。
未だギリギリと俺の首を絞めるなまえの手の上に左手を重ねてやれば
締め付けがまた少し強くなった。
「殺せるなら、殺してごらん」
まっすぐ目を見てそう言ってやると
いっそう辛そうな表情になって
ゆっくりと締め付ける力が抜けていく。
「ち、がう」
「何が?」
「折原さんを殺したいんじゃない」
「うん」
「私は、わた、しは」
殺してほしかった、と続けて
なまえは両手で自分の顔を覆った。
「この世界は、酷いの」
ポツリ、ポツリ、と
何かが溢れるように言葉を続けていく。
「私には、生き辛いのよ」
声も震わさずにハッキリと発されていた言葉の語尾が徐々に消えていく。
次に彼女が言いたい事は何となく想像できた。
「私を殺してよ、折原さん。」
そんな姿が何故か愛しくなって
寝転んだままの体をゆっくりと起こし
目の前の小さい体を抱き寄せる。
「残念だけれど、そのお願いは聞いてあげられないね」
「どうして?」
「確かに世界は理不尽だし不平等だ。
なまえにとったら生き辛い世界かもしれない。」
「私には戸籍も無いし大丈夫よ?」
「けれど、辛い事ばかりじゃない」
「だから、ね、折原さん」
「外の世界が辛いなら家にいればいい」
だから、もう少し生きていて。
そう言うと同時に
なまえの後ろ首に軽く手刀を入れて気絶させた。
カクン、と力の抜けたなまえを支えて
ベッドに寝かせ頭を数回撫で
髪を一房手にとりキスをした。
逃がさないよ
僕の可愛い人(手離すものか)
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[mokuji]
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