○月×日  はれ
デジタルワールドから人間界にやってきて今日で二日。友樹にこの日記帳をもらった。友樹が学校に行っている間、僕が暇を持て余しているのを気遣ってくれたみたい。面と向かって話したのは初めてだけど、友樹は優しくてすごく良い子。こうして会えるなんて思ってもいなかったから、嬉しい。そういえば、僕と友樹は初対面のようでそうでないからすぐに仲良くなったけど、全くの初対面のメルさんと直樹は、やっぱり僕らみたいにはいかないみたい。出会った時に直樹がメルさんを「メル」って呼んだ時なんか、本当に怖かった。「お前如きがその呼び名を使うな」って言ったメルさんの目が冷たくって、僕なんかよりよっぽど氷の闘士が似合いそうだった。メルさんは、直樹と仲良くなるのは大変そうっていうか、多分今の時点じゃ直樹と仲良くする気がないんだと思う。直樹はちょっと困った感じに肩を竦めて「メルキューレ」呼びに変えてたけど、これからあの二人、仲良くできるのかなあ。ちょっと心配。



○月△日  あめ
直樹に「どうして俺のことは呼び捨てでメルキューレのことはさん付けなんだ?」って聞かれた。メルさんは年上だから、って言ったら俺も年上だろ?って。気を悪くしたのかな、と一瞬思ったけど、純粋に不思議だっただけみたい。一応僕の方が直樹より年上だよ、と教えたら、隣で黙ってマンガを読んでいた友樹まで一緒になってびっくりしてた。確かに僕は友樹より小さいけど、そんなに驚くほど大人らしくないのかなあと思ってちょっと落ち込んだ。その場にはいなかったけど、友樹たちの両親も僕のことは子供だと思ってるみたい。メルさんは終始無言で直樹の本を読んでた。でも、僕が子供じゃないって言ってからも直樹は僕を子ども扱いしてる気がする。お風呂くらい一人で入れるのに。メルさんは「甘やかされてやっているとでも思っておけばいい」なんて言ってたけど、多分適当に言っただけだ。メルさんは十分大人に見えるから。自分の姿を不満に思ったことはないけど、ちょっとだけ羨ましいな。



□月☆日  はれ
今日はこっちに来てから初めてデジモンを回収した。いきなり成熟期のクワガーモンに出くわした時は流石にちょっとびっくりした。ちょうど友樹も直樹も学校が休みで四人で当たることができたからそんなに手こずりはしなかったけど、初めて見るデジモンがあれっていうのは、人間の直樹には衝撃だったんじゃないかなあ。ほとんど固まってた直樹にメルさんは無反応だったというか、これくらいで驚いてどうする、みたいな目を向けてただけだったけど、こっちの世界にデジモンなんていないんだから、あれが当たり前だと思うんだけど……。でも、直樹はメルさんの言葉を真に受けて、というか、僕たちはともかく、弟の友樹が怯えず僕のために力を使ってくれて、最後にスキャンまでしたのを見て、思うところはあったみたい。「お前は俺なんかどうでもいいかもしれないが、俺はそれじゃ困る」って言った直樹は今までメルさんのどんな言葉にも呆れるか苦笑するかしていたのとは違って、強い瞳をしてた。



□月◎日  くもり
人間界に来てから一か月とちょっと。メルさんが大学に行く直樹に付いて行くようになってから一週間。僕らの生活リズムが安定してきた。僕は毎日家で友樹のお母さんのお手伝い。メルさんは直樹のバイクの後ろに乗って大学に行っては、図書館か外のベンチで一日本を読んでいるらしい。直樹の持っている本も全部読んでしまったメルさんにはちょうどいいみたい。帰りにはバイクで町内をパトロールしてから帰ってきてるみたいで、今日はついに直樹とメルさんの二人でデジモンをスキャンしたらしい。少し嬉しそうに、ちょっとだけほっとしたように話してくれた直樹に、メルさんは「まだまだだ」なんて言ってたけど、それに「はいはい、精進しますよ」なんて笑いながら返してた直樹の態度から見るに、二人も少しはうちとけたみたい。直樹は気付いてなかったみたいだけど、メルさん、ちょっとだけ笑ってたしね。僕は友樹とパートナーになれて良かったと心から思うから、二人にもそうなってもらいたいな。



□月▽日  あめ
メルさんと直樹は少しずつ仲良くなってるみたい。今日は平日で友樹は学校、友樹のお母さんはパート、お父さんは仕事で昼間の間家には僕とメルさんだけのはずたったんだけど、直樹が急に休講になったとかでずっと家にいて、メルさんと僕にお昼ご飯を作ってくれた。ラーメンおいしかったな。お昼を食べた後は何となく三人ともリビングのソファに座ったままで、僕はゲーム、二人は読書して過ごしてたんだけど、やっとダンジョンをクリアしてふと隣を見たら、直樹がメルさんの肩によりかかって寝ちゃってた。メルさんは肩に頭が乗ってるのも気にしないで横文字の難しい本を片手で読みながら、もう片方の手で直樹の髪を撫でてた。いつも通りの無表情より、ほんの少しだけ優しい顔だった。僕が見てるのに気付いたらすぐに手を引っ込めたけど。直樹とちゃんと仲良くなってるみたいで嬉しかったけど、メルさんにちょっぴり睨まれて「直樹には言うなよ」って言われちゃったから、直樹には内緒。恥ずかしがらなくてもいいのに。



◇月●日  はれのちくもり
今日、メルさんと直樹が喧嘩した。というか、メルさんが一方的に怒ってて、直樹は暫く様子見するつもりみたい。原因は、直樹がデジモンの攻撃からメルさんを庇って怪我をしたせい。怪我と言っても、掠り傷だから生活にも支障はないみたいだけど。俺は庇われるほど弱くない、人間のお前の方がよっぽど弱いのに何であんなことしたんだって、メルさんはすごく怒ってた。直樹は「気付いたら飛び出してたんだから仕方ないだろ」ってこっちも譲る気はないみたい。二人とも自分の意見をしっかり持つタイプだから大変みたい。後から直樹に聞いたら、直樹はメルさんを護りたいんだって。デジタルワールドを守護する十闘士の一人でも、自分が成長期のデジモンとすら渡り合えないくらい弱くても、それでも、メルさんを一人で戦わせたくないんだって。直樹もメルさんも、お互いを護りたい気持ちは一緒なんだから、早く仲直りできるといいな。怪我をした直樹を心配して叱るくらい、今のメルさんには直樹が大事みたいだから。



◇月▲日  あめのちにじ
怪我をした直樹にメルさんが怒ってから数日、やっと、というか早くもというか、二人が仲直りした。詳しくは分からないけど、直樹もメルさんもお互いの気持ちをちゃんと話し合ったみたい。今日は久しぶりに四人でデジモンの回収に行ったんだけど、今日はメルさんも直樹も今まで以上に連携が取れてて、最後に直樹がデジコードをスキャンした後には二人して目を合わせて直樹さんは満足そうに、メルさんはほんのすこしだけ、笑ってた。なんだか僕まで嬉しくなった。……友樹と直樹は人間で、僕とメルさんはコアで、僕らは良く似てるけどやっぱり違う生き物だから、また喧嘩するかもしれない。僕とずっと一緒に戦ってくれた友樹はともかく、人間界をしか知らない直樹には分からないことの方が多いだろうし、そもそもメルさんの性格がああだし。それでも、こうやって仲直りをして、もっと仲良くなれたらいいな。直樹にこんなことをこっそり言ったら頭を撫でられた。子供じゃないけど、直樹の手は好きだな。



×月■日  はれ
最近、直樹の様子が少しおかしい。いつも、大学に行くときにはメルさんをバイクの後ろに乗せていくのに、最近は忙しい、と言ってメルさんが準備してしまわない内に一人で行ってしまう。家にいる間も、普通にしてるようでメルさんとの距離が遠い。避けてるのかな。友樹のお母さんがいくらかお小遣いをくれてはいるから電車を使って大学に行くことはできるけれど、メルさんはそれが面倒みたいで、最近は直樹が前に書いた大学のレポート課題を読んだり、共同で使ってる直樹の部屋を片付けたりしてる。今日はポカポカしてて気持ち良かったから昼寝してたら、本の虫干しを手伝わされた。手伝いの合間に「最近、直樹ちょっと変だよね」って言ってみたら「忙しいと言うんだから忙しいんだろう。あいつの本業は学生なんだ」といつもより少し低い声で返事が返ってきた。メルさんのことだから絶対否定すると思うけど、直樹に避けられてるのが寂しいんだろうなあ。……直樹、どうしたんだろう。



×月★日  くもり
直樹が変な理由が何となく分かってしまった。直樹は、メルさんが好きみたい。本人からそう聞いたわけじゃないけど、最近の直樹を見てて、その目が誰かに似てるな、と思ったら、フィアさんを見るリトさんの目にそっくりだったんだ。虹彩の色とか、目の形じゃなくて、浮かべる光が。メルさんは気付いてるのかいないのか、ううん、多分、まだ気付いてないんじゃないかな。お陰で、直樹とメルさんは顔を合わせれば普通に話もするのに、お互いどこかよそよそしい。アグニお兄ちゃんとヴォルさんは僕が会う前から恋人同士だったし、リトさんは片想いだったけどフィアさんには寧ろ積極的に話しかけてたから、直樹の考えてることがよく分からない。好きなら好きって、言ったらいいのに。何も分からないらしい友樹も微妙な空気の変化に戸惑っているみたいだし、このままっていうのは、ちょっと困る。直樹には直樹の考えがあるのかもしれないけど、ちゃんとメルさんのことを見てほしいな。



×月◇日  はれ
今日、直樹がケーキを買ってきた。それも近所のケーキ屋さんのじゃなくて、この前テレビでやってたちょっと遠いところにある有名なお店のケーキ。「どうしたの?」って聞いたら、「食べたかったから、まあ、お前らの分もついでにな」って。直樹ってそんなに甘いもの好きだっけ?と思ったけど、ケーキは嬉しかったから、それ以上は聞かないことにした。僕のはアップルパイで、友樹のはショートケーキ、直樹はチーズケーキで、甘いものが苦手なメルさんには、コーヒーゼリーだった。コーヒーゼリーを差し出すときに「明日、図書館に新刊が入荷するらしいんだけど、……行くか?」って聞いた直樹に、メルさんはちょっと目を細めてから「この家の本は読み尽くしたからな」って答えてた。すごく分かりにくいけど、仲直り、かな。……そういえば、直樹が行ってきたあのお店、コーヒーゼリーがおいしいって有名なんだよね、確か。



×月◎日  はれ
一応聞いておこうかなあ、と思って、今日「もう、悩み終わった?」とこっそり聞きに行ったら、直樹はちょっと目を見張ってから、ああ、そっか、お前年上だもんなあ、って苦笑して、頷きだけで答えをくれた。とりあえず直樹がなんだか吹っ切れて普段通りに戻ったから、メルさんとの仲も今まで通りになった。けど、やっぱり、ほんの少しの、気をつけて見ていないと分からないような、視線とか、仕草とか、そういうのがやっぱり、今までとは違うんだよね。お風呂上がりに面倒がるメルさんの代わりに髪を乾かすのは直樹の仕事なんだけど、メルさんの髪を梳きながら、直樹はたまに切なそうに目を細めたりしてて、ああ、好きなんだろうなあ、と思う。でも、メルさんにそれを言うつもりはないみたい。直樹は、どうしたいんだろう。恋って難しいね。僕にはまだ、分からないよ。



△月●日  くもり
直樹の次は、メルさんが変になってる。というか、直樹はそう思ってるみたいだけど、メルさんが直樹を好きになったみたい。少なくとも僕にはそう見える。なのに、二人とも本当に思っていることを言わないまま、両思いなのに片思い同士のままだから、すごく変に見える。二人に別々に「言いたいことは言った方がいいよ」とは言ったんだけど、直樹は「言わない方がいいこともあるんだよ」なんて言うし、メルさんなんか「言うことなど何もない」って。特にメルさんはすごく余計なことをいろいろ考えて、それで尚更頑なになってるみたい。誰かを好きになることの何がいけないのか、僕には分からない。っていうのをラーナさんに言ったら、すごく悪い顔をして「じゃああたしがちょっとお話してきたげるわよ」って。……ちょっとだけ不安だけど、大丈夫よ、何とかなるものなんだから、って笑ったラーナさんは優しい顔をしてたから、悪いようにはしないと思う。……多分。



△月◆日  あめのちくもり
今日は書くことがたくさんある。というのも、あの後メルさんを引きずり出して色々話をしてくれたらしいラーナさんのお陰でというべきか、直樹とメルさんがお互いの気持ちに気付いたから。というか、本当のところ、喧嘩しながらぶちまけてたんだけど。友樹の両親や友樹が寝た後で良かったと思う。最初はたまには、ってことで三人でお酒を飲みながら(といっても殆ど直樹が飲んでたけど)話してただけだったんだけど、直樹が「しかしあのラーナって子?かわいかったな」とか言い出してから変になったんだよね……。多分直樹はラーナさんに嫉妬したんだろうけど、メルさんはそれを直樹がラーナさんに気があると思ったのか「なんだ、ああいう手合いが好みか」って。それから二人とも的外れの嫉妬で険悪になって、お前ラーナが好きなのか、お前こそ、って妙な喧嘩になっちゃって。最終的には、痺れを切らした直樹が「俺はお前が好きなんだよ!」って叫んで、そしたら大分酔っぱらってたメルさんが、「何でそれを早く言わないんだ、馬鹿か」とか言いながらほろほろ泣き出して、ぎょっとした直樹が伸ばした手を掴んで。……出るタイミング失ったせいで一部始終見ちゃったんだけど、キスで終わって良かったと本当に思う。それで、いきなりキスされて固まった直樹を押し倒す勢いで懐いて、俺も好きだとか、俺なんかが好きになっちゃいけないのにとか、後半はよく聞き取れなかったけどとにかくべらべらまくし立てたあと、メルさんはそのまま寝入ってしまった。直樹の膝に頭を乗せた格好で。……うん、なんというか、怒濤だった。メルさんのもの狂いはいつものことと言えばそうなんだけど。直樹はというと、「……大丈夫?」と声を掛けたら、「……大丈夫じゃない……」と呻いて真っ赤な顔を両手で覆って俯いたかと思ったら、メルさんの寝顔を間近に見て悲鳴にもならない声を上げながら仰け反ったりしてた。その隙にようやっと抜け出してきて今に至るんだけど、明日からどうなるんだろう。



☆月▼日  はれ
酒の勢いで直樹とメルさんがお互いの気持ちを暴露し合ってから、二人の距離は今までよりもずっと近くなった。といっても、相変わらずメルさんは直樹に対して冷たいことも平気で言うけど。この前大学の教授に誘われて飲み会に行って、遅く帰ってきた直樹に「酒臭い、寄るな」って言ったのは結構酷いと思う。でもその分直樹が歩み寄っているというか、寄るな、って言われても「ああ、じゃあ風呂入ってくるわ」なんてさらっと返しちゃうんだから、バランスは取れてるのかな。でも、昔と比べてメルさんは変わったと思う。勿論良い意味で。僕は勿論、皆もパートナーと出会えて、アグニさんやヴォルさんは一緒にいられて、メルさんは、よく笑うようになった。この時間がどれだけ続くのかは分からないけれど、できることなら、できる限り長く、皆と一緒にこうして過ごせたらいいな。

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