携帯が小刻みに震える。
どうせメールだ。
授業中に電話かけてくる馬鹿はいないだろうとタカをくくり放置するがいつまでもバイブが止まらない。
どこの馬鹿だ。
表示された名前に溜め息を吐いた。
軽音部の高崎先輩だ。


「うちのクラス自習じゃなかったらどうしてくれるんですか」

「いやいやいやいや。俺を侮っちゃあダメよ三浦ちゃん。自習だって知ってたから。こっから三浦ちゃん見えるんだぜー」


私の席は中庭向きの窓側の一番後ろ。
窓から反対の校舎が見える。
ちょうど正面に当たる教室の窓からひらひらと動く手を見つけた。
ここからじゃよく見えないけど、あれはわたしの大好きなゴツゴツと骨ばった手だ。


「バラ色自由登校のくせに来たんですか」

「暇なんだもん。今日遊ぼ?」

「…この時間とホームルームで終わりなんで待ってください」

「こんなこともあろうかと俺は魔法の暇潰しアイテムを持ってきたのだよ」

「その魔法の暇潰しアイテムで家でじっとしてればいいものを…」

「だって三浦ちゃんに会いたくなって」

「はいはい。じゃあ切っていいですかいいですよねそれじゃ」


一方的に切って課題のプリントに目を落とす。
面倒だがこれをして提出しなければ出席扱いにならない。
馬鹿ばかり見ている場合ではないのだ。


「!?」


唐突に始まった歌声に思わず吹いてしまった。
アコースティックギターの音と低い歌声。
確か十年以上前に流行った曲だ。
クラスもざわつく。
慌てて電話をかける。


「ちょ、先輩!聞こえてる!20mくらい離れてんのにすごいクリアに聞こえるんですけどっ」

「だって三浦ちゃんに唄ってんだもん。聞いてください。高崎翔太で『サニーデイサンデイ』」

「何故今!っていうかチョイス!古いから!」


言い終わらない内に電話は切られてしまった。

や め て く れ

思っている間にもジャイアンリサイタルが始まってしまう。
いや、ジャイアンほど酷くないけど。
むしろいい声なんだけど。
選曲が、選曲が!
っていうかTPO考えようよ!

窓から顔を出して先輩を見る。
うちのクラス所か他のクラスのやつまで窓から身を乗り出している。
隣のクラスで数学教師が怒鳴った。
席に着きなさいって無理だろ。

――高崎!


あ、教頭来た。
ってか名前覚えられてんじゃん。
絶対今までも何かやらかしてるだろ。
教頭の体が揺れている。
怒られてるのかな、あれ。
先輩余裕そうなんですけど。
なんで今じゃらーんって鳴らしたの先輩!
あ、連行された。
馬鹿だあの人。
連行先は……校長室、かな。

見物人が引っ込んでいく。
わたしも席に座り直して、課題に向き合う。
ホームルームは諦めてあの馬鹿を引き取りに行こう。

ラスト一問の所で教室がざわついているのに気づいた。
耳をすますとアコースティックギターの音。
なんかデジャヴなんですけど。
聞こえたのは某ちょんまげアニメの有名な曲。
何やってんだあの人!
ラスト一問も投げ出して校長室へと走り出した。





きみのいない日常はいらない





(学校って楽しいわー)
(ほんとすいません先生方!)
(三浦…お前は悪くない…)
(先生、俺明日も来るわ)
(来るなー!)




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