「赤点なんて取るなよな」 「国語苦手なんっすよ」 「それでも日本人か」 赤点を取ってしまったが為に正樹さんに呼び出された。課題を見てやる、と。昼からずっと付き合ってくれている。面倒見のいい人だなぁと少しにやけたら、ハリセンで殴られた。わざわざ作ったらしい。なんて無駄な。 「終わりましたー」 「ん。帰ってよし!」 「ありがとうございました」 「礼はプレイでな」 わしわしと頭を撫でられて正樹さんの家を出た。 うちの高校では赤点を取ると提出期限付きの課題を与えられ、提出期限を過ぎると提出するまで部活に参加できなくなるのだ。提出期限は明日。正樹さんがいなきゃ終わらなかったなぁ、と感謝する。 軽い足取りで家を目指す。 前方になんとなく見覚えのある姿が見えた。 「あれっ?」 「へ?」 声で確信。間抜けな声を出した相手に駆け寄る。 「やっぱり! 日菜子さんだ!」 顔がゆるむ。だって本当なら今日は会えない日だ。 「瀬田君、どうしたのこんな時間に?」 驚いた顔の日菜子さんの発した疑問に今の時間を思い出す。9時過ぎだ。女の子がひとりで歩くには危ない時間。いつもは俺が送っている時間。 「俺は先輩のとこに行った帰りっすよ。日菜子さんこそ。こんな時間に外出なんて危ないですよ」 「わたしは本屋に行こうかなって」 危ないって言ってるのに! 本屋なら今じゃなくてもいいはずだ。 「はい、帰りましょう」 「……なんで?」 「危ないからっすよ!」 「大丈夫だよ」 「俺が心配なんです!」 むっとした顔をしているけど、ここは譲れない。 「……でも、家に居ても暇なんだもん」 「じゃあ、本屋に付き合います!」 勢いで言い返したら、日菜子さんの言葉が止んだ。さっきより更に驚いた顔を見て、ようやく自分の言ったことを理解する。 「……すみません。面倒臭いこと言いました」 もっと言い方があったのに、と頭を下げながら後悔。 突然くしゃり、と頭を撫でられた。勿論、日菜子さんに、だ。 「あ、あの、日菜子さん?」 「……帰る」 「……え?」 視線だけ、上を向く。 なんで突然? 本屋は? ぐるぐると疑問が渦巻く。 すると、今度は拗ねたような声。 「送ってくれないの?」 「送ります!」 間髪入れずに答えた。思わずにやけてしまう。 しかし、ふと疑問を持つ。頭の上の日菜子さんの手はいつになったら離れるのだろう? 「……えっと、日菜子さん? 手」 「ん?」 「放してくれないと帰れません」 「んー。どうしよっかなぁ」 悪戯めいた声に、意外だと思った。こんな彼女は初めてだ。よく考えたら触れるのも初めてだ。意識した途端、何故か緊張してくる。 ふう、と一息吐いて、落ち着いたふりで言った。 「遊んでます?」 「あははっ! 帰ろっか瀬田君」 ぱっ、と頭から手が離れて日菜子さんが前を歩き始める。慌てて隣に並んで帰った。距離の近さに何だか鼓動が早くなった。 年上の女の子 8 前回までのastro boy (連載おやすみ中) |