雨と私と立原くんと

突然の雨だった。首領の命令で買い足しに出ていた私は当然の如く、雨避けになるようなものは持っていなかった。慌てて古書店の軒下に逃げ込む。雨は止む所か、強くなっていった。

その時、誰かが私のことを呼んだ。雨音に隠れそうな音量ではあったが、随分と聞き慣れた、男性の声だ。私はその声の主へとゆっくり振り向く――


「…立原君ですか」
「オイ、どういう意味だよ」
「べっつにー」


はあ、と背中をシャッターに預ける。どう考えても今のシチュエーションなら中也先輩が来るところだ。また一つ大きな溜め息を零せば、立原君が傘を閉じ私の隣に来た。


「久しぶりだけど元気してたか?」
「元気元気。立原君も元気に芥川に使われてるでしょ?」
「…お前、もっと言葉選べよ」
「中也先輩以外にそんな労力使いたくない」


そう言うと今度は立原君が大きな溜め息をした。すると「そう言えば、」そう言って会話を切り出した。私は立原君を見る。


「苗字さ、幹部候補の話出てンだろ?」
「誰から聞いたの?」
「それは言えねぇけど…なんねぇの?幹部」


立原君の釣り上がった瞳が私をみた。今度はまた、私が溜め息を付く番だ。どうやらうちの組織には随分と口が軽い人がいるらしい。見つけたら絞め上げなくては。


「そういうの興味無いし」
「ふーん。お前、似合ってそうだけどな」
「それに、幹部なんてなったら中也先輩の下で働けなくなるし」
「…それが一番の理由だろ」
「うん」


すると立原は「勿体ねェなあ。俺なら率先して話受けるわ」と言う。そりゃあ、私だって考えなかった訳ではない。田舎の実家は裕福では無いから、もっと仕送りが増えれば両親だって兄弟達だって喜ぶだろうし。

でも私が両親の反対を押し切ってポート・マフィアに入ったのはお金が欲しいとか、偉くなりたいとか、そんな理由ではない。


「私、自分の人生を掛けてでも、中也先輩の隣で中也先輩を守っていきたいの」
「何じゃそりゃ」
「何だろうね」


そう言えば、中也先輩に始めて出会ったのも雨の日だったなあ、と思い返す。あの頃は私は幼かったし、中也先輩もまだ10代だった。衝撃的な運命の出会い。あれがあったから、今、私は此処で、中也先輩の下で生きているのだ。


「そういえば、私たちが初めて会った時のこと覚えてる?」
「ア?そんな前のこと覚えてねぇよ」
「そうなの?残念。立原さ、私の事見て"すっげぇかわい"、」
「わー!ストップストップ!」


立原は耳まで真っ赤にして静止を掛ける。笑ってはいけないけれど、ここまで慌てる姿を見るのは初めてだった。結局堪えきれず、私はお腹を抱えて笑った。


「ねー、今も可愛い?」
「…ちょっと黙れ」
「ねーえ、可愛い?」
「ウッセェ!可愛いわ!クソブス!」
「ちょっと!それ褒めたの貶したの!?」


すると立原は舌打ちをしてから「ムカつく。帰る」と言い、傘を開き雨の中を歩いて行った。私はその後ろ姿を見送る。少しだけ見える耳がまだ真っ赤に染まっている。


2018/04/07

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