それはよく晴れた日の午後の事。私はいつも通り安全パトロールという名の散歩に出掛けていた。同僚たちは真面目に仕事をしているけれど、私には関係無い。まあ、こんな所を生真面目な先輩に見られたら、それはそれは情熱的なお叱りを受けるのだろうけど。

片手には古株の先輩用のお菓子がたくさん入ったビニール袋。先日、車の鍵を無くしてしまった時に先輩の"異能力"で見つけてもらったからそのお礼だ。

のろのろと歩いていると、河川敷で物凄い表情をして此方を見ている男の子がいた。その子と目が合うと突然顔を赤くしたり、青くしたりして何だか忙しなかった。

するとその時、川の流れに沿って"太陽に向かって伸びる男性の足"が流れてきた。…嗚呼、見た事ある。そう思いながらその様子を見ていると、表情が忙しない男の子が勢い良く川へと飛び込んだ。

面白いものを見た。私は足を河川敷へと足を進め、砂利の上に座る。ぜぇぜぇと呼吸を荒くしながら男の子は"足の正体"と一緒に陸へ上がってきた。


「君、凄いね。あんなのほっとけば良いのに」
「な、にを言ってるんですか、」


整わない呼吸のせいで、男の子の言葉は乱れる。その時"足の正体"が勢いよく起き上がる。男の子が話しかけると、恩を仇で返すかのようにそれは舌打ちをした。思わず吹き出すと、「おや?何故名前が此処に?」と聞かれた。


「安全パトロール中です」
「そんなにお菓子を持ってかい?」
「これは乱歩さん用だから、パトロールの一環だよ」


そんな会話をしていると男の子は不思議そうに目をぱちぱちさせて「二人は知り合いですか?」と聞いた。「うん、職場の同僚。そしてこの人は自殺マニア」と言えば、男の子は何とも言えない表情をする。


「君かい?私の入水を邪魔したのは」
「邪魔だなんて!僕はただ、助けようと!…入水?」


分かる、男の子の気持ちは嫌という程に分かる。今自分が助けた人に、助けた事によって怒られるだなんて予想も想像も出来ないだろう。ダラダラと自殺へのポリシーを話しているのを聞いていると、向こう岸に見慣れた姿を発見した。手を振ると眼鏡を指で持ち上げる。その間、大きなお腹の音が聴こえた。


「こんな処に居ったか。唐変木!」
「おー国木田君。ご苦労様!」


そこからはいつも通り国木田君の怒声が聴こえる。私――いや、私たちにとっては慣れてしまった日常だ。しかし、国木田君にご飯を奢ってもらう、なんて恐ろしい会話が聞こえてきた。


「君、名前は?」
「中島…敦ですけど」
「ついて来たまえ、敦君。何が食べたい?」


その返答に敦君――は、小さな声で「茶漬けが食べたいです」と答えた。遠慮無しに笑う彼は、矢張り国木田君に奢らせる魂胆らしい。「私も良いのかな?」と聞けば「もちろんさ!」と言われた。


「俺の金で勝手に太っ腹になるな!太宰!苗字!」


国木田君の声はよく通る。敦君はきょとんとして私達を見た。「私の名前だよ。太宰、太宰治だ」そう言うと、私の頭の上に掌を乗せる。


「このちっちゃいのは苗字名前。私の"古くからの友人"だよ」
「相変わらず一言多いなあ…。宜しく、敦君」


そう言って敦君の手を取る。思ったよりも細く、大きな掌をしていた。





敦君の食べっぷりは映像に残したい位に凄かった。私は敦君の隣で餡蜜を食べる。もちろん、国木田君の奢りで。そしてその国木田君は予定を狂わされたと、非常にお怒りのようだ。けれどそんな事にはお構いなく、敦君は茶漬けを食べ続け、私には到底理解出来ない会話を国木田君と繰り広げていた。


「ほんっとーに助かりました!」


敦君はとても満足そうな表情をしていた。話を聞くと、敦君は孤児院を追い出されたらしい。経営不振、という理由で。ぱくり、白玉を口に含む。太宰を見れば、何時もと変わらない表情をしていた。


「皆さんは…何の仕事を?」


その問いに「なァに…探偵さ」と格好つけて答えたのは太宰だった。そしてそれをフォローするのは国木田君の役目。これも随分と見慣れたものだ。


「斬った張ったの荒事が領分だ。異能力集団『武装探偵社』を知らんか?」


すると急に敦君の表情が変わる。それは些細なものだけれど、恐らく今、彼の頭の中では『武装探偵社』について知っている知識を思い返しているのだろう。その状況の中、太宰は相変わらず国木田君を弄っていた。いや、国木田君も国木田君だ。首吊り健康法なんてある訳が無い。

しかし、ここから敦君は急変した。虎探しをしている事を告げると、自分は虎に狙われていると騒ぎ始めたのだ。敦君が虎に会った場所と時間は確かに、"その時虎もいたのだ"。

逃げようとして国木田君に捕まった敦君を見る。恐らく、私と太宰が辿り着いた結論は同じだろう。その証拠に、太宰は"見慣れ飽きてしまった、私にか分からない合図"をしたのだから。嗚呼、また面倒事に巻き込まれそうだ。


2018/03/22
リンク無 
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -