外は危険がいっぱいだから


※マフィア時代のはなし


先代と違って、今の首領は理性が働き、物事を考えてから行動する人だ。だから“後処理”をする事なんて代替わりしてから指を折って数えれる程度になっていた。

しかし大層久し振りに、頭より体が先に動いたらしい。首領がとても申し訳なさそうに「少しばかり、お願い出来るかな?」と言ってくるから断る事なんて出来なかった。

私の部隊は年に数回あるかないか程度の活動だ。普段はそれぞれが他の隊に所属している。久し振りに袖を通した“外出用”の制服は何だか息苦しく感じる。


「苗字参謀、隊員全てやる気に満ち溢れています」


そう言ったのは、私がまだ隊を引き連れて活発に活動していた時に右腕としてサポートしてくれていた古株の構成員。そして広津さんの茶飲み友達だ。


「それは良かった。さて、久し振りに出陣としますか」


普段は結ばない髪の毛を一つで括りあげる。これ一つで気分が高まり、血が騒ぐ。こういう時に、嫌でも私は生粋のマフィアなのだと思い知らされる。





ヒールを鳴らしながら本部内を歩く。その間、通り過ぎる皆が頭を下げる。その中に赤毛でのっぽな無精髭面も混じっていた。昨日遅くまで飲んでいた相手が頭を下げているなんて変な感じだ。


「やあやあ、参謀様じゃないか!今からご出勤かい?」


陽気に声を掛けてきたのは言わずとも太宰で、手を振りながら私に近付いてくる。けれど相手にしている時間は無い。にんまりと笑いながら隣を歩く太宰を無視していると「ちょっと、少しぐらい相手にしてくれてもいいじゃないか」と不貞腐れたように言われた。


「見付かると面倒だから、その前に早く行かないといけないの」
「嗚呼、それなら中也にもちゃあんと伝えておいたよ」


ピタリ、と足が止まる。こいつは今、何て言った。太宰とは逆隣で「苗字参謀、」そう聞こえた。それなら本当に面倒臭いことになる前に早く行かなくては。私の右腕構成員と目を合わせ頷き、駆け出そうとした瞬間だった。


「っ、名前!」


建物内に響き渡るような声で名前を呼ばれた。最悪だ、本当に最悪だ。ギギギ…そんな音が鳴りそうになる程、振り向く時に首が歪な動きをした。


「手前、また行くのか!」
「またって、前回行ったの一年前だし」
「だとしても、俺は手前に危ない事はして欲しくねェって何回言えば…っ!」


“この仕事”に行く前に中也に会うと本当に面倒だ。心配してくれるのは嬉しいけれど、私は生憎守ってもらうだけのお姫様ではない。それに先代の時には毎日のように血を見てきたと何度言っても理解してもらえない。


「あのね、中也。これは首領直々の任務なの」
「それなら俺に変えてもらうようにお願いしてくる」
「中也はいつ任務が入るか分からないんだから、大人しく此処に居て」


太宰のように幹部では無いにしろ、中也はポートマフィアに居なくてはならない存在だ。元々の頭数に入っていない私の隊なら、急遽穴を開けた所で困る事はほぼ無いに等しい。首領が私に頼んでいる仕事は全て即座に片付けなければならない案件ばかりなのだ。


「今夜、ディナー食べに行く約束してるでしょ。それまでには戻って来るから」
「戻って来れなかったらどうすンだ」
「今まで戻って来れなかった事があった?」
「やっぱり、俺が一緒の方が…」


こうなってしまった中也は、もうどうする事も出来ない。だから中也の耳に入る前に行ってしまおうと思ったのに。視界の端に居る太宰を睨みつければ、楽しそうにニヤニヤしていた。

もう、埒が明かない。こんな事で時間を割いていたら、どれだけ時間があっても足りないのだ。中也の気持ちは素直に嬉しいけれど、仕事に私情を挟んではいけない。


「苗字名前から中原中也に命令する。即座に私室へ戻り、書類を片付けなさい」


こういう時にだけ、自分の地位を使う私は悪い人間だ。こういう言い方をされては逆らうことが出来ない。分かっていてしているのだ。

中也は何か言いたそうな表情をしたけれど、ぐっ、と唇を噛み帽子を脱ぎ、足を折り膝を着く。「…かしこまりました」と小さく呟いた。ごめん、中也。あなたの後ろで太宰が声を殺してお腹を抱えて笑ってる。


「気を付けて」


中也はそれだけ言うと、帽子をかぶりその場を立ち去った。これ、絶対不機嫌だ。帰ってきたら滅茶苦茶不機嫌なやつだ。元々小さいのに、更に小さくなる姿を見ながらため息を吐いた。


「今日の相手の予想人数は?」
「大凡、百人程度かと」


それならあっという間に終わるだろう。今日はいつもより、早く終わらせてしまおう。ディナーの後にそのまま中也の家にお泊り予定だから、こんな状態では楽しくないじゃないか。

長い外套に高いヒール。まるで魔女のようだと言ったのは誰だったっけ。本部ビルの入り口で神経質そうな顔をした丸眼鏡に出会った。嗚呼、そういえばコイツだった気がする。

2018/07/09
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