小説 | ナノ


恐ろしくなる位、綺麗な満月の夜だった。今夜は野営の為、私とベナウィが見張り番をする事になった。普段ならクロウと一緒なのに、何故か今日は私を指名してきたのだ。残念ながら、私は凄く強いかと聞かれれば、答えは否定で返ってくる。

月の光に照らされながら、木々の葉が風で揺らされる音を聞く。平和だ――素直にそう思った。最近は何かと面倒毎に巻き込まれる事が多く、皆、心身ともに疲れていたのだ。だから一日位、こんな夜があっても罰は当たらない。


「名前」


心地良い低い声が私の名前を呼んだ。声がした方を向くとそこにはシシェを引き連れたベナウィが立っていた。彼は私と反対側、あちらの監視の筈なのにどうしたのだろう。するとベナウィはゆっくりと口を開き「今夜は何者も来ません」そう言った。


「それは侍大将としての感?」
「いえ、決定事項です」


自然な動作でベナウィは私の隣に座った。珍しくあの鎧も脱いでいる。と言うことは、本当に平和な夜なのだろう。ベナウィが言うのだから間違いない。


「名前、貴女はこの旅が辛くはありませんか?」
「…どうしてそんな事を聞くの?」
「私が貴女を無理矢理連れて来たからです」


正直、驚いた。私とベナウィは元々恋仲で、ベナウィがハクオロさん達に着いて行く事になり、私も同行する事にしたのだ。私は自分が好き好んで着いて来たつもりだったのに、彼がそんな事を思っていただなんて。


「ベナウィには、私がどんな風に見えてる?」
「…仲間と微笑み、楽しそうにしているように思えます」
「それならそうなんじゃないかな」


自分の膝を抱えながらベナウィを見る。すると普段はしないような少し驚きを見せ、すぐにまた表情を戻した。私は変な事を言っただろうか。いや、そんな事はないはずだ。


「今まで守られてばかりだった私が、今度は誰かを守る立場になったの。正直最初は不安で仕方なかったけれど、今はこの仲間達と生きていきたい。そう思うくらい、私は強くなったんだよ」
「…」
「ねぇ、ベナウィ。貴方にとっての私は泣き虫で意気地なしかもしれない。けどね、もう違うの。そりゃあ、皆と比べればまだ弱いけど――」


そこで私の言葉は止まった。ベナウィの綺麗な人差し指が、私の唇に触れているからだ。「少し、声が大きいですよ」困ったように言われ、慌てて私は自分の口を押さえた。


「クロウが言っていました。――名前は大将が思っている程、もう弱くないぞ、と」


気付いたときには、ベナウィの腕の中にいた。鍛えられた無駄の無い体が、私の体温をじわじわ熱くする。見上げれば、さらりと綺麗な髪の毛が私の頬に触れた。


「名前が――私の名前が何処か遠くへ行ってしまったような気がしました」
「ベナウィ…」
「ただ私の腕の中で守られているだった貴女が、独り立ちし遠くへ行ってしまうのが酷く恐ろしく感じました」


ベナウィの声は、身体は、小さく震えていた。こんな弱々しい彼を見たのは何時が最後だっただろうか。その頬に触れると、夜風に当たり冷たくなっていた。


「ベナウィは私が強くなったら、もう私を守ってはくれないの?」
「そんな事はあり得ません」
「でしょう。それならこれからも私の事を守り続けてよ」


満月に照らされ、ベナウィの表情がよく見える。ポーカーフェイスとか、クールビューティーとかよく言われる彼だけれど、実際はそんな事無い。実際に今、頬を紅く染めているのだから。


「仰せのままに」


そう言うとベナウィは優しく微笑み、彼の大きな掌が私の頬に触れた。そして柔らかく少しカサついた唇が私のそれに触れた。時間にしたら、ほんの数秒。けれど触れ合ったそこから、ベナウィからの愛が伝わってきた。


「ちょ、アルちゃん押さないで!」
「だって良く見えない」


小さく聞き慣れた声が聞こえ、私とベナウィは同時に声がした方を振り返る。そこにはアルルゥやカミュ、それからオボロやクロウ…ハクオロさん達までこちらをテントの陰から見ていた。カーッ、と体が熱くなる。


「…一体、何をしているのですか」


淡々とベナウィが言う。その声には明らかに怒りが含まれていた。それにいち早く気付いたのは長年の相棒、クロウだった。「いや、今日は月が綺麗だなぁなんて話をしてて…!」慌てて言葉を返すが、それは今のベナウィには逆効果だ。


「クロウ、オボロ」
「な、何ですか大将」
「見張り番を変わりなさい。私と名前はテントへ戻ります」


そう言うとベナウィは立ち上がると同時に私の腕も引っ張った。何分、力の強い彼だ。私はなすがまま、ベナウィに引っ張られていく。


「このテントには私と名前以外の立ち入りを禁止します」
「ベ、ベナウィ?」
「そして…何が聞こえても見えても気にしないでください」


するとベナウィは私をテントへと押し込んだ。そしてすぐ、私は押し倒される。目の前には覆いかぶさるようにして、ベナウィの綺麗な顔があった。


「どうせ夜更かしするのなら、楽しいことをしましょう」


再度触れたベナウィの唇は、少し湿り火照っていた。その熱が私にも伝わる。綺麗な指が私の服を捲り、お腹の上をゆっくり上っていく感覚に身震いを起こした。


2018/04/28
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