# 01 気付けば俺は、赤子から抜け出したばかりの幼子だった。 若返った訳は無い。知らない内に死に、生まれ変わったとでも言うのか。しかし周囲を見れば、時代を遡ったような景色。 魂は輪廻の度に、あちこちの時代を駆け巡るのか? それとも、これが平行世界などと呼ばれるものなのか。 どちらにせよこの世は乱世……後に戦国時代と呼ばれる頃のようで。 そんななか俺は武家の子"神条時丸"として生まれたのだった。 まさか、今まで自分が歩んできたと思っていた人生は全て夢だったのか、だなんて、哲学的な事を考えてみる。なるほど蝴蝶の夢か。 以前の人生の終わりは記憶から見つからない。 どう生きたのかはぼんやりと、しかしどう死んだのかは検討も付かない。 確かにいた筈の家族や友人……以前の自分の名前や顔も。 生まれ変わってしまったのだから仕方がない、とそれに関しては恋しさも悲しさも淋しさも無いが、そうなるとこうも自我だけはっきりとしているのが謎だ。 ただ漠然と、自分と言う個が生まれ落ちたのは二度目だと、そう思った。 中途半端に残った前世の記憶のせいで……俺の頭の中にはこの歳の子供やこの時代に生きる者には似つかわしくない考えが散らばっている。 子供らしくない脳内であろうが、自分が子供である事には特に何も違和感は無かった。 この世界が何なのかは分からないが、"二回目の自分"は確かに生まれたばかりだからだろう。 初めは明るく朗らかで天真爛漫な子供を演じた、と言うよりも満喫した。 きゃらきゃらと笑って愛想を振り撒くだけで大人達は頬を緩めて俺を可愛がってくれるものだ。 そう、以前の俺は知らないが、今の俺には兄がいる。 雪丸兄上……年の違いは二つか、三つか。 嫡男の筈が身体が弱く床に伏せがちで、いつも部屋で本を読んでいる。 周りは家臣や侍女と年上ばかりで寂しかった俺は、父に頼んで会わせて貰った穏やかな兄に懐いて甘えてみた。 兄とは言え彼もまだ子供。病気がちでなかなか触れ合いも無く、やはり寂しかったに違いない。 部屋を訪れれば笑顔で迎えてくれ、嬉しそうに話をしてくれた。 俺と接してから心なしか表情の明るくなったという兄を見て父も喜んだし、話し相手が出来た俺もご満悦だ。 こういう時代に親子兄弟の確執は大きかろう。出来得る限り仲良くしておきたい。 そういった子供らしからぬ計算も潜んではいたが、彼らと家族である事も、親しくする事も不自然であるとは全く思わなかった。 俺は彼らが好きなのだ。家族なのだから当然とも言えようが、不思議なものだ。 ただ、一般的に母と言う存在には余り会えなかったのだが。 武家では乳母が世話をするのだし、母とは言え姫なのだからまぁ分からないでも無い。 しかし兄の母親である正室は優しげに笑ってくれるが目が怖い。 俺も一応子供なのでビビってしまい、うっかり泣いたら更に嫌われてしまった。 そして俺の実の母親である側室は……次男坊とは言えおのこ(俺)を産んだのだからもっと堂々としても良いと思うのだが、すっかり正室に怯えて引き込もっている。 いやはや、女とは、げに恐ろしきかな。まぁ、怖い女なんてご正室しか知らないのだが。 |