# 07 俺が今まで死の危険に遇った敗因は幾らでもある。 気配に気付いても動けなかったこと。 見慣れた姿を安易に信用したこと。 確認もさせずに物を受け取ったこと。 やはり一番手っ取り早いのは全てを疑う事だ。 何も信じてはならない。少なくとも女狐の尻尾を掴むまでは。 だがそれだけでは足りない。 今の所は俺の力を計りかねているだろうが、俺では全く敵わないような手練れが送られてはどうにもならないのだ。 力を付けなくてはならない。 己の身を己で守る力が無くてはならない。 奇しくも死にかけた時手に入れた不思議な力、婆裟羅が今では唯一俺の味方だった。 鍛練の後、庭で自分の痣や擦り傷を見つめていた。 遠巻きに警護に付いているのはあの場で俺の婆裟羅を見た忍びだ。 一度は口封じすら検討されたが、あれだけ怯えていれば無理だろうと一時的に俺に付けて貰えるよう進言してみた。 人手にも余裕が無いのだからいっそ手元に置いておく。 ただの子供に人心掌握術など無い。恐怖だろうがなんだろうが、御するに楽ならそれで良いのだ。 「細(ささめ)、人払いを」 気配が震えると共に小さな返事があり、ふっと気配が消える。 幾らなんでもそこまで怯える事も無かろうにと思うと多少愉快だった。 唇の端を軽く吊り上げたまま、周囲の気配を探る。一番近くても廊下の先だ。 蔵の裏側に回り、殆ど雑草と呼んでも良い花を幾つか摘む。 ぱっと見おなごのような事をしている自分を客観的に考え複雑な気分になるが、花を摘む事が目的では無いので忘れるよう努めた。 気配にも注意を払いながら、手のある花に集中する。 死にかけなければ使えないのでは意味が無い。 婆裟羅を制御する。それが己が身を守る近道であり、残された小さな光明。 じわり、摘まれた花を掴む手に黒が滲んだ。そのまま花に伸びる闇が花弁を散らし、茶色に枯らしていく。 手を開けばぱらぱらと零れ落ちる残骸を見送ってから、軽く袖を引く。手首にあった筈の痣は消えていた。 ――――行ける。 ひとり小さく頷いた所で、足元の草花まで枯れているのを確認して溜め息を吐く。 もっと細かく制御するにはまだ訓練が必要だなと思いながら、枯れた草花を踏み荒らし泥で汚してごまかした。 気配を気にしながら軽くその場を離れて振り返れば、情緒不安定な子供が癇癪を起こしたようなぐちゃぐちゃの雑草が見える。 汚らしい其れが不思議と愛しく感じて、ふわりと微笑んだ。 |