座学の予習が終わり、ユリコに声を掛けようと思えばユリコは私の布団の中ですうすうと寝息をたてていて思わず口元が緩む。
黙っていたら可愛い奴なんだけどな。いや、別に二人のときなら普通に可愛らしいのだがな。
それに、ユリコが辛辣な言葉を吐くのは照れ隠しだと最近理解した故にユリコが毒を吐いたとしても口元が緩むだけだ。ああ、たまに滅多打ちにされる滝夜叉丸にほんのちょっぴり雀の涙程の同情をくれて遣っている。そんな私を見てユリコは顔を歪める。以前二人きりの時小さな声でごめん、と謝って来た為何の事だと首を傾げて居ればユリコは大嫌いな滝夜叉丸に同情して遣る私を見て、無理をしているのではないか、自分の尻拭いをさせているのではないか、迷惑を掛けて居るのではないか思って居たらしい。なんて可愛い奴なんだ。

「三木ー。」

ふと聞こえた声に顔を上げれば何の遠慮も無く戸が開かれ、踏鋤を持った喜八郎が普段通りの無表情で私へ視線を寄越した。

「なんだ?」
「タカ丸さんが呼んでる。」
「タカ丸さんが?」
「うん。」

何故だろうかと首を傾げれば喜八郎はユリコを指差し緩く言葉を紡ぐ。

「ユリコの髪を弄りたいんだってさ。」
「…成る程。」

ユリコを見れば綺麗な黒髪には素晴らしいキューティクルが見えていて、無駄にサラサラした髪は傷んでおらずタカ丸さんが弄りたいのも納得する。
特に手入れをしている訳でも無いユリコの髪はあの滝夜叉丸が褒めるくらい綺麗なサラストだ。ユリコに負けて少しばかり悔しい気持ちはあったが私が可愛がって手入れしてやったユリコ故当たり前だと思い、鼻が高くなった。
そしてユリコは褒められると嬉しそうに目を細め「三木ヱ門が手入れしてくれてたからだ。」って言うんだ。その姿が可愛いの何の。
ユリコの白い肌に朱を差して、私より高い位置に有る頭を小さく俯かせ私に微笑みかける姿は本当に可愛らしい。

「三木ヱ門くーん。」
「あれ、タカ丸さん。」
「遅いから来ちゃったよー。」

へらへらと緩い笑みを浮かべて部屋に入って来たタカ丸さんに小さく頭を下げる。喜八郎は興味が無さそうに踏鋤を器用にくるくると回しながら廊下に出た。大方蛸壺でも掘りに行くのだろう。そんな喜八郎を一瞥して再びタカ丸さんへ視線を遣ればタカ丸さんはにこにこと笑顔を浮かべてユリコを見ていた。ユリコは未だに寝息をたてている。ああ、なんて可愛らしいんだろうか。

「ユリコくん、寝ちゃってるね。」
「はい、起こすのは何だかしのびなくて。」
「此れだけ気持ち良さそうに眠ってたら仕方ないよ。」

くすくすと笑うタカ丸さんを一瞥してユリコの髪を優しく撫でる。ユリコは気持ち良さそうに口元を動かし、身を捩る。
そんな姿も可愛らしくて、つい口元が緩んでしまった。

「ユリコくんも寝てるし、俺も寝よったかなぁ。」
「え?」

ぐっと背伸びをしたタカ丸さんはユリコの横に大の字に寝転ぶ。
何をしているんだ、と見遣ればタカ丸さんは目を閉じて身を小さくしてユリコを見た。

「おやまあ。」

何時の間にか戻った喜八郎はタカ丸さんを見ると無表情に小さく呟いた。すると何を思ったのか小さく口角を上げタカ丸さんの横に腰を下ろし、踏鋤を頭上に置けばごろりと寝転がった。

「喜八郎!?」
「三木も寝たら?」
「はぁ?」

何を言っているんだこいつは。確かに、疲れも溜まっているし眠いと謂えば眠い。しかしユリコの隣で眠るなんて出来ない。別にユリコと眠るのが嫌だとかではなく、純粋にユリコの寝顔を見ていたのだ。ユリコはあまり私と一緒に居るときには眠らないし、寝顔を見るだなんて滅多に出来ない。ユリコの寝顔はプレミアが付く位に価値があるんだ。

「…みきえ、もん…。」
「……!!」

小さく紡がれた言葉に目眩がした。
いま、今ユリコは何と言った?私の名前を、言ったよな?寝言で私の名前を言うだなんて反則じゃないか。







休日は皆でゴロゴロ
滝夜叉丸まで来るなんて聞いてない!



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -