短編 | ナノ


先ず始めにお揃いのシャーペンとハンカチを買った。二人してお揃いだねってほんのり白くて健康的なピンクを足したような頬を緩ませてにっこり笑った。
次にお揃いのキーホルダーを買って三郎くんに自慢してやると三郎くんは雷蔵くんとそっくりな顔で羨ましい羨ましいと繰り返し雷蔵くんにお揃いの物を買おうと提案すれば三郎くんとそっくりな顔を天使のようにふんわりと和らげ嫌だとすっぱり断られていた。地団駄を踏み悔しがる三郎くんを見て今度二人の誕生日にお揃いの物を買ってやろうと思った。
初めての林間学校では同じのメーカーのジャージを着て、社会科見学ではお揃いの帽子を被って、修学旅行ではお揃いの鞄、中学校と高校では同じ携帯の機種、ネックレス、ブレスレット、化粧水に入浴剤、ノートにファイルに筆記用具、Tシャツに靴下、ベッドに枕に布団にコップ。
お揃いに出来るありとあらゆるものをお揃いにした。
髪型も兵助くんを真似してふわふわのさらさらに頑張ってしたし、睫毛だって頑張って長くしたし、苦手だった豆腐も好きになった。
大学生になって、兵助くんから住所もお揃いにしちゃおうか、と言われた時は凄く凄く嬉しかったし、これからもずっと一緒に居られると思った。
「兵助くんの髪はふわふわだね。」
「なまえの髪もふわふわ。」
お揃いの白いカバーを敷いたベッドの上で白いふわふわで暖かい布団に一緒に入りながらお互いの髪の毛を触る。
私の髪の毛もふわふわしてると思うけど兵助くんの髪の毛はもっとふわふわでさらさら。サラサラストレートヘアランキングがあるならふらふらサラサラヘアランキングもあっていいと思う。絶対に兵助くんは優勝するから。(そして雷蔵くんが二位にランクインする。)
「兵助くんには敵わないよー。」
ぼんやりとしながらそう言えば兵助くんは何が可笑しいのかくすくすと笑いながら私の髪を撫でる。
笑うとちょっとだけ下がる目尻と存在感を主張する長い睫毛とか、白くて綺麗なお肌とか、女の子よりも綺麗で可愛いのにカッコいい顔立ちとか、本当に兵助くんは素敵だなぁとしみじみ思う。
フツメンだけどタケメンな八左ヱ門くんと親しみ易くて愛らしい勘右衛門くんと、ふわふわしてて天使みたいに可愛い雷蔵くんと、にまにま悪魔みたいだけど本当は寂しがりな三郎くんと、絹ごし豆腐みたいに繊細で優しくて切り取った絵画みたいに綺麗な兵助くんと、兵助くんを真似してる私。
全部前と一緒だけど、全部前と違う。
「…ねぇ兵助くん、性別はお揃いじゃないよ。」
寂しい寂しい寂しい。
みんなはあの頃よりももっともっと成長して髪も短くなってカッコよくなって身長も高くて、変わらないまま変わって行くのに、私だけ背も低くて肩幅も狭くて女の子で声も高くて、私だけみんなと違う。一番大切だった性別がお揃いじゃない。どうしようどうしようどうしようどうしよう。兵助くんとお揃いじゃない。嫌だ嫌だ嫌だ、お揃いじゃないなんて嫌だよう。
「私女の子やめて男の子になる。そしたら兵助くんとお揃いだもん。」
「冗談。」
「冗談じゃない。私兵助くんとお揃いがいいもん。」
「性別が同じになったら名字はお揃いに出来ないよ?」
「ええっ、嫌だ嫌だ嫌だ!」
「じゃあ女の子のままで居て?」
「でも、男の子じゃなきゃお揃いじゃないもん。」
さっきまでの楽しく笑っていた私はもう其処には居なくて、代わりに情けなく子供みたいにぼたぼたと涙を流しながら癇癪を起こす私が居て、兵助くんが困ったように眉を下げて私のふわふわした髪を撫でる。
「ごめんねごめんね、私我が儘言わないから嫌わないで。置いてかないで。」
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい、兵助くんの綺麗な顔を悲しく歪ませてごめんなさい。
ちゃんといい子にするから置いてかないで。うわーんうわーんうわーん。幼稚園みたいに泣き喚く私を兵助くんは何も言わず静かに抱き締めてくれます。ああ、ああ、ああ、なんて優しい兵助くん。私みたいな汚い子が兵助くんの側に居ちゃいけないんだ。ごめんなさいごめんなさい、真似してごめんなさい、付きまとってごめんなさい、もう二度としないから許してください、私のことをきれいサッパリ忘れても構わないから、ごめんなさいごめんなさい、
「…ねぇなまえ、俺はなまえが女の子に産まれてきてくれてよかったって思う。だってなまえが男の子のままだったら身長も高いだろうからこうして抱き締めてやれないし同じにベッドにくるまることだって可愛い服を着せてやることも子供を産むことも出来ない。今は昔と違って衆道はあまり受け入れられないからきっとなまえは傷付いてしまう。俺はなまえに笑っていて欲しいからそんなの嫌だ。それに、名字を一緒にしてしまえば俺たちは離れることなくずっと一緒にお揃いの物を使い続けられるんだ。なまえが女の子だから、ずっと一緒に居れるのだ。」
「…兵助くん。」
「なまえ、これからもずっと一緒なのだ。」
ふんわりと綺麗に笑う兵助くんは、あの頃と全然変わってなくて、其れが何故だか酷く安心して胸を支配していた罪悪感や焦燥感がすう、と消えていく。
ぱちぱちと瞬きをする度に長い睫毛が揺れてぽろぽろと涙が頬を伝いシーツに染みを作る。
「…兵助くん、だぁいすき。これからもずっと一緒に居ようね。来世もまた一緒に居ようね。」
「あぁ。」
「次は兵助くんが女の子だといいなぁ。」
くすくすくすくす。
真っ赤になった目で半弧を描きながらそう言えば兵助くんもくすくすと綺麗に笑って私を抱き締めてくれる。
今回は私が女の子になってあげたから次は兵助くんが女の子。女の子の兵助くんは立花先輩も吃驚するくらいの美少女になるよね、絶対。あの頃と同じくらいに髪を伸ばして絹ごし豆腐みたいにつやつやぷるぷるの肌に触れていいのは私だけで、ぷっくりとした赤くて形の良い唇に唇を合わせていいのも私だけ。
お洋服も日用品もお家も名字もお揃いにするの。
あぁ、そしたらみょうじ兵助になっちゃうのかな?ちょっとバランス可笑しいかな?久々知兵助が一番綺麗な名前だけどみょうじ兵助もいいかもなぁ。
「うふふ、兵助くんだぁいすき。」


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