短編 | ナノ


※現パロ








割りと真面目に熱を出したみたいだ。
鼻風邪とかよくあるんだけど、熱を出すのなんてかなり久しぶりでどうすればいいかよく判らない。
体温計が38度と示した時は嬉しかったが同時にヤバいと思った。
平均体温が35度しかない俺にとって38度なんて地獄でしかない。マジなんで今まで気付かなかったんだよ。
熱冷まシートを貼った額がひんやりと熱を冷ましていくが、途中からひりひりとした感覚になってきて熱冷まシートを剥がす。オレは熱冷まシートを貼れない派の人間なのだ。因みに湿布も肌がひりひり痛むから貼れない。挫いたりするとと何時も人より治りが遅いのはそのせいだったりする。
ゆっくりと瞼を下ろすとぼんやりと眠気が襲ってくる。
真面目に怠いし頭が痛い。寒がりと言われるオレが布団を捲るくらいには体が熱い。
そういえば朝から何にも食べていなかったのに気付くが今更起き上がる気力も体力も無い。
こんな時彼女の一人や二人でも居たら良かったのにと実感する。あ、いや二人は要らない。昼ドラ的展開なんて要らない。オレは平和主義者だからうっかり背後から刺されちゃいました、なんて展開一ミリ足りとも望んでない。寧ろ友人が何時か後ろから刺されそうで怖い。女の子をもっと大事に扱えよクソこのリア充め。
考えれば考える程虚しくなってくるため思考を断つ。起きたら汗ばんば体を拭いて取り敢えずお粥でも作ろう。梅も有るし梅粥がいいかな。梅は風邪に効くと言うし。あとは、スポーツ飲料も買いに行かなくてはいけないかな。栄養素が失われたままだと体に悪い。近くに薬局があって本当によかった。ゆっくり息を吐けば今度こそ眠気に体と思考を委ねて意識を断つ。







「…ん、」
寝苦しさに目を覚ませば部屋は真っ暗で、窓から差し込んでいた太陽の光は消え失せ小さく街灯の光が見えるだけ。
目覚まし時計へ視線を遣れば闇にも光る蛍光色の針は22時らへんを指していて、そんなに寝てしまっていたのかと何故だか悔しくなった。ああ、もう薬局は閉まっているじゃないか。コンビニは此処から遠いし、今日は諦めて水を飲もう。
幾分怠さと熱は消えたが其れでも具合はあまりよろしく無い。
壁に凭れながらぺたぺたとフローリングを歩けばリビングから光が見えた。あれ、電気は消した筈なんだけどな。もしかしたら不審者かも、と無駄に警戒したが不審者だったらその時だ、と近くにあった武器に成りうる箒をスルーしてリビングへ向かう。
ひんやりと無機質なドアノブに手を掛ければ躊躇なんてする訳無く一部ガラス張り一般的なリビングの扉を開いた。
「あ、起きたか?」
「……ハチ?」
聞き慣れた友人の声はキッチンから聞こえ、なおも体を壁に凭れさせながらキッチンが見える位置まで移動すれば相変わらずの焼きそば頭の友人がにこにことエプロンをしながら此方を見ていた。
意味が判らず首を傾げる。まず言いたいのはハチにそのエプロンは似合わない。今すぐ脱げ。
なんて疲れたオレに言える筈も無くハチの矢鱈眩しい笑顔に癒されながら椅子に座った。因みにカウンター式のキッチンになってるから自然とハチと向き合う形になる。
「……なんで居んの?」
掠れた言葉にハチは目を瞬かせ苦笑いにも似た笑顔を浮かべる。部屋に居るのは何等問題は無い。寧ろハチには合鍵を渡して居るから何時でも入れる。因みに合鍵を渡した経緯なんて忘れた。
「今日は俺と約束してただろ?時間過ぎても来ないし電話も出ないし、心配して来てみたら熱が出てるみたいだったから。」
「…あー、すまん。」
「いや、大丈夫だ。一応声掛けたんだけど覚えてないみたいだな。」
ハチには悪いが全く覚えて無い。記憶の片隅にもない。今指先に付着した塵屑よりも無い。其れよりも今日飯に行こうと約束していたのをすっかり忘れていた自分が恥ずかしい。
ガサゴソとビニールが合わさる音が聞こえる。きっとハチが何かしているのだろう。其れを一瞥してカウンターテーブルに頬を当てる。ひんやりとした感覚が気持ち良い。
風邪をひくと、というより体が弱ると人肌が恋しくなる。中学生くらいまでは体調を崩すと家族が優しくなるから体調を崩すのはキツかったけど割りと好きだったりした。まぁ、其れは飽く迄家族が居たからこそのことだ。一人暮らしをすると体調を崩すと色々と厄介だから健康には気を遣っていたから完全に油断していた。思えば最近は季節の変わり目で体調を崩す奴が多いとニュースでも言っていたじゃないか。
コホコホと咳を数回すればゆっくりと深呼吸をして動悸を落ち着かせる。ああ、怠いなぁ全く。
「なまえ、お粥作ったから食べろ。」
「…ん。」
ハチがオレの横に座り温かそうな湯気が発つお粥が装われたお粥と木のスプーン、多分スポーツ飲料の入れられたコップの乗ったお盆をカウンターテーブルに置いた。
ぼんやりとそういやコイツ意外と料理が上手かったと思い出す。
ゆっくりと体制を整えて合掌していただきます、と言う。スプーンを持つがどうも上手く力が入らない。結構重症なのかもしれない。
心配そうにオレを見るハチを一瞥して何とかお粥を口に運ぶ。ちょっと塩辛いが塩分が不足している今は丁度良いのかもしれない。雑に置かれた梅がハチらしくて小さく笑った。
黙々とスプーンを動かしていればハチがなぁ、と口を開いた。
「…お前、薬飲んでないだろ。」
梅を咀嚼しながら一つ頷く。
薬なんて飲んだ記憶は無い。大体、薬が嫌いなオレに薬飲めとか頭大丈夫ですか?って言いたくなる。故に昨日の段階で貰った薬はソファーに放置プレイしてる。因みに粉薬だった気がする。粉薬とか論外だろ。
「薬飲まなきゃ治らないぞ。」
「いやだ。」
「じゃあ飲め。」
「いやだ。」
「…我が儘言うなよ。」
「…いやだ、キツい、ベッド行く。」
最後の一口を飲み込んで再び合掌後の御馳走様、と言えばハチは小さく溜め息を吐く。そんなハチを一瞥して覚束無い足取りで自室に戻りベッドに倒れ込めば外からは雨の音が聞こえた。雨音は割りと好きだから何だか落ち着く。此れに雷が追加されたらもっと最高だと思うんだ。雨音を聞いていればハチが水と薬を持ってオレの前に腰を下ろした。
「ほら。」
「ざけんな。」
「錠タイプだぞ。」
「ヤダ無理拒否。」
体を仰向けにして大きく溜め息を吐き、腕を頭上で組み瞼を下ろし寝ますアピールをしてみたがハチには通用しなかったみたいで何故か知らないがオレに跨がって来やがった。
「退け、邪魔。」
「薬を飲まないのが悪い。」
「は?…っ!?」
ひんやりとした感覚に目を見開けば嘗て無い程までに近い位置で見るハチの顔。くちゅりと水音が聞こえたかと思うと舌で抉じ開けられる唇。次いで生温い水と唾液が混ざった液体が流し込まれ条件反射で飲み込めば、舌は口から出る事はなく上顎や歯の裏を執拗に舐めらる。思考が上手く回らず頭がぼうっとする。息が苦しくなりハチの肩を押し返すが力が入らない。ハチはオレと視線を合わせるとゆっくりと口を離す。何方の物かわからない唾液が顎を伝った。
「なに、すんだよ。」
切れた息を整えるため大きく呼吸をすればハチは今まで見たことも無いくらい妖艶な笑みを浮かべる。
「なまえが薬飲まないから。」
「…だからって、」
言葉は、続かなかった。








ちゅーを、させたかっただけなんです。


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