短編 | ナノ


ぼくには好きな人が居ます。(けれどこの感情が恋なのか愛なのかさえわからないほど脆く薄っぺらいそんなものなので果たしてぼくは本当にあの人が好きなのかさえわかりません。しかしあの人に触れられた箇所は熱を持ちあの人の声を聞くと口元が緩みあの人を想うと心の臓が少しばかり早く脈を打つので決して嫌いではないのだと思います)
その人の特徴を挙げるのなら艶やかに靡く金髪と切り揃えられた前髪が特徴的な割かし冷たい人、と云うのが真っ先に思い浮かびます。ぼくたちの村では珍しく(村が貧しいと云うこともありましたがあの人の金の髪はきっとどこへ行っても目立つのではないでしょうか)きらびやかな出で立ちで凛とした雰囲気で、まだ数えて七つの頃のぼくに世の中は金なのだと云うことや大人の汚い世界を教えてきました。その頃のぼくはまだ畑を耕したり川で遊んだりと云ったことしかしたことがなかったため全く理解はしていませんでしたが今ならあの人が言ったことがわかるような気がします。
あの人は武家の娘さんなのであまりぼくとは一緒にいることは出来ませんが時間が出来た時は必ずぼくのところに来てくれました。あの人の家はこの辺りでは地位が高く本当ならあの人は嫁いでいる頃なのだと母が言っていましたがきっとあの人に付き合いきれる人はぼくくらいしかいないのだろうからぼくが大きくなって出世したらあの人をもらってあげようと思います。










「おほー、懐かしいな。」

ぽつりと呟いた言葉は自分一人しかいない部屋ではやけに大きく聞こえてなんだか少しだけ恥ずかしい気持ちになった。手元にある紙は忍術学園に入学したばかりの頃に周りのことについて書かされた作文でありやたらと大人ぶった書き方や今よりもずっと汚い文字やくしゃくしゃになった紙が時を感じさせた。
実家の棚を掃除していたらたまたま見つけた懐かしいものに口元を緩めながら六年間共に過ごした仲間は今は何をやっているのか、後輩たちは元気にやっているかなど少し複雑になりながらも思い出に浸っていた。しかしこれをあの人に見られたら一体なんと言われるのか。大方頭が高いだの死ねだの言われるのだろうと予想がつき小さく苦笑いを溢した。

「…ハチ?」
「っ!」

突如隣から聞こえた女性にしては低い声に肩を震わせながら目を向ければ珍しく髪を高く結っている自身の主が先程まで手に持っていた作文を持ちながら自身を無表情に見つめており、彼女に気づけなかったことに悔しさを感じながらも彼女の雰囲気に素早く土下座をする。

「す、すいません…!」
「ハチのくせに随分上から目線なんだね。」
「そ、それは…。」
「頭が高いぞ八左ヱ門。」

ぐりぐりと自身の頭を踏みつける彼女は容赦なんてものはなくきっと顔をあげれば頬に地面の跡が出来ていて更に頬を打たれるのだろうと思うと溜め息が出そうになった。

「最初から最後まで文が可笑しい。お前本当に頭悪いな。」
「ま、まだ十歳だったんだから仕方ないじゃないですか!」
「十歳だから仕方ない?そんなの言い訳だろ死ね。」

はあ。
と大袈裟に溜め息を吐いた彼女は作文を折り畳み懐に戻せば自身から足を退けすたすたと部屋から出ていこうとし襖を開く前にまたこちらに振り返り口を開いた。

「お前は一生私の下僕だ。 勘違いするな。」



主従



あの日から随分と時は流れたもので自身は忍術学園を卒業し彼女専属の護衛となりました。二度と昔のような関係に戻ることはないのだろうけれどこれで自身は二度と彼女から離れられなくなると思えば差して悲しくはないのでした。


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