短編 | ナノ


見上げた空は、何処か狭くて息苦しいかった。
向こうも其れなりに都会だったし見上げても澄み渡る様に綺麗な青なんて見れなかったけど、其れでも息苦しさなんて感じなかった。
当たり前の様に隣に居た存在を置いて来たのは自分で、自分では裏切られたなんて言ってるけど、本当に裏切ったのは自分で、最初にあの人から離れたのは自分で、自業自得なのだけれど、今さらながら涙が溢れてくる。

「(会いたい、)」

吐き出しかけた言葉を咀嚼し胸の奥底にしまう。
優しく笑いかけてくれたあの人は今何をしているだろうか。
天の邪鬼な自分に呆れることなく側に居てくれて、欲しい言葉を紡いでくれた。
今更悔やんだって遅いのに、意味なんて無いのに、何故今更こんなことを思うのだろうか。

「待ってよー!」
「早く早くー。」

通り過ぎる二人の楽しげな声にはっと意識を戻す。
こんな所で何をしているのだろうか。今日は高校の友人と出かける約束をしているじゃあないか。
時計を見れば短針は10を指しており、待ち合わせの迄あと少ししか無い。今からならば走って間に合う。先程の楽しげな二人の笑い声から逃げるようにその場から走って待ち合わせの場所に向かう。

「…あれ?」

切れた息を整える。
待ち合わせの時間調度に着いたにも関わらず友人の姿は見えない。時間に厳しいあの友人が遅れるなんて考えられないし、携帯電話に連絡も無い。若しかして友人に何かあったのだろうか。最近は不審者が出ると謂うし。考えれば考える程嫌な事しか思い浮かばない。
「…取り敢えず待ってよう。」

たまたま遅れているだけだろうと無理矢理思考を落ち着かせ近くのカフェに入る。
冷房の効いた店内はうっすらとかいた汗をひかせ、火照った体を冷ます。
店員に案内された席に腰を下ろし友人にメールを送り、外を見れば空は灰色の雲に覆われ今にも降りだしそうだ。今日の天気は晴れだったのだけど、どうやら天気が崩れるようだ。
少し肌寒い店内を見渡せば回りは楽しそう談笑している若者から、静かに読書をする年輩の方と様々な人たちが時を過ごしている。
丁度目に止まった店員を呼びカフェオレを頼む。
程無くして若い店員がカフェオレをテーブルに置き、マニュアル通りににっこりと笑顔を浮かべ「ごゆっくり。」と告げた。
以前友人と来た際から気に入っているカフェオレからは甘く優しい香りがして、無意識に表情が柔らかくなる。

「あ、」

不意に携帯電話が震え、画面には友人の名前。
慌てて出れば友人は急用が出来今日は無理、とのこと。後日の埋め合わせを話し電話を切る。

「…本屋にでも寄ろうかな。」

無駄に張り切って着たワンピースに視線を落とし溜め息を一つ。
残ったカフェオレを飲み干し重たい腰を上げる。
ゆるりとした動作で何気なく外を見れば、見慣れた背中に目を見開く。
どくりどくりと心臓が嫌な音を発てる。
伝票を持った手が震え、外を食い入るように見つめると、見慣れた背中がゆっくりと振り向いた。



──カツン、


自身の指先から伝票がすり抜ける。



「…なん、で。」

窓の外。
道路を挟んだ向かい側には、自身が想った人が、見知らぬ女性と二人其処に居た。




多分君には近付けない
そこはわたしの場所なのに


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