短編 | ナノ


「…あっついなぁ。」
「そうだなぁ。」

窓の外から聞こえる蝉の煩い鳴き声が鼓膜を揺らし、たまに通り抜ける何処かひんやりとした風を頬に感じ、少し汗ばむシャツと、隣から聞こえるシャリシャリとアイスを齧る音が、夏の訪れを嫌な位に知らせる。

「七松お前なんで居んの?」
「ん?知らん!」
「…知らんって、お前なあ。」
「みょうじこそなんで居るんだ?」
「早い方が涼しいじゃん。」
「寂しくないか?」
「あ?お前俺をぼっちとでも言いたいのかよ。」
「違う違う。みょうじは一人で待っているなんて、寂しくないのか?」
「……別に。」

どこぞのエリカ様よろしくの如くそう言えば七松はふうん、と小さく呟いたあと、またシャリシャリとアイスを齧り始めた。
アイスは多分見た目的にソーダ味で、見ているだけでも少しだけ涼しくなってきた。これでソーダ味じゃないと云うならば何かの詐欺か、何処かの誰かが遊び感覚で作ったネタ系のアイスに違いない。まあ、色なんて着色料を変えてしまえばどんな色にでもなるが、ソーダと言えば薄い涼しげなブルーだと云う固定概念なるものがあるため、その他色で着色されたアイスはソーダ味だなんて認めたくない。まあ、俺が認めなくても商品部が認めてしまえばそれだけなのだが。

「…よく学校でアイス食えるよな。持参だろ?」
「暑いからな。細かいことは気にするな!」
「細かくねぇよばか。」

なははは!と軽快に笑う七松から視線を外し新緑色と青く済んだ空と白い雲しか見えない窓の外に視線を向ける。無駄に田舎なこの場所は都会と違い空気も綺麗だし、空だって広い。夜空は宝石を散りばめたみたいにキラキラと数え切れない程の星が輝いていて、なんだか時間がゆっくりと進んでいるような、そんな錯覚にさえ陥る。
都会の空なんて小さい頃に見ていただけで、そんなに鮮明には覚えていないが、小さなガキだった俺は、凄く息苦しい空を眺めていたんだと思う。

「…なあ、七松。」
「なんだ?」
「お前はさ、ずっとこの場所に居たんだろ?」
「ああ。」
「…綺麗な場所だよな、ここ。」

そう小さく言い、七松に視線を向けると、七松は真ん丸い目を更に真ん丸くさせきょとんとした馬鹿みたいな顔をして俺を見ていたものだから、つい吹き出してしまうと七松もなははは!と何時ものように笑いなんだかずっと前からの親友みたいに、ずっと一緒に居た仲間みたいに、ただ笑い続けた。

「ははっ、なんか可笑しいな。同じクラスなのにこの三年間まともに喋ってねぇんだぜ?」
「みょうじは暗かったからな!」
「くらかぁねぇよ。お前が明るすぎんだ。」
「ありがとう!」

七松の手元にはもう木の棒しか残って居なくて、校門辺りからはちらほらとおはようございます!と云う挨拶も聞こえ始めてきて、ああもうすぐ二人の時間は終わってしまうのだと思うと何故かほんの少しだけ寂しくなった。

「なあ七松。今日学校終わったら遊び行かね?」
「いいな!あ、それなら長次や留三郎たちも誘おう!」
「お前ら仲いいよな。」
「みょうじも伊作と仲良しじゃないか。」
「伊作とは腐れ縁だよ。」

昔っから、本当に同情を越えて感動するくらいのレベルで不運な幼馴染みを思いだしけたけたと笑えば、廊下から複数の足音が聞こえた。

「…じゃあ、放課後伊作たちを誘って川にでも行こうか。」
「それはいいな、そうしよう!」
「どうする?一旦帰る?」
「いいや、そのまま。」
「わかった。」

足音は近付く。
声からするに、多分うちのクラスのヤツだろう。もう少し遅く来てくれてもよかったが、まあどうせ放課後話せるしいいか、と終わらせる。

「…じゃ、俺放送あっから。」
「じゃあな!なまえ!」
「あ、小平太お前アイスの棒捨てとけよ?怒られんのは委員長なんだからな。」
「わかってる!」

ひらひらと手を振り教室から出れば丁度クラスのヤツが教室の前まで着いたところで、にい、と爽やかな笑顔でおはよう!と言われる。小さく口元に笑みを浮かべて返せばソイツは委員会頑張れよ、と肩を叩いて教室に入る。後ろからは二人の声が聞こえる。

「…昼、伊作たち誘わなきゃな。」

夏はあまり好きではなかったけど、今日からはそんなに嫌いじゃない。寧ろ楽しみだ。


「…なまえか。」

口元が緩んだのは、多分気のせい。


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