短編 | ナノ


※転生現パロ



「やいやい久々知くん。」
「なんだ?」
にんまりと楽し気に歪む唇。
昔から変わらない声、顔、表情にほう、と小さく息を洩らす。
「今日も素敵な睫毛だね。」
「お前こそ素敵な八重歯だな。」
「おや、其れは嬉しいな。併し来月にでも矯正しに行こうかと考えているんだ。」
けたけたと笑いながら放たれた言葉に久々知は目を瞬かせる。
確かに、八重歯は治療が必要なものではあるが、何故今頃になって?前は八重歯がチャームポイントだ、と自慢気に話していたじゃないか。
僅かに寄った眉間の皺を左手の指先で解し普段と何等変わらぬ表情を浮かべ言葉を紡ぐ。
「勿体ないな。」
「しかし母さんがなぁ。」
ふむ、と顎に手を当て目を伏せる姿が矢張り昔とタブってしまい、久々知はきゅう、と胸が苦しくなった。
未だにうんうんと唸っている男から視線を外し自らの白い指先を見る。
あの頃彼奴が好きだと言った指先とは大分変わり、あの頃の様に肉刺が目立つ訳でもなく、見た目に反して固い訳でもなく、タコがある訳でもなく、皹ている訳でもなく、唯、回りの男よりも幾分柔らかく白い指先をしている。
久々知は指を曲げたり爪を眺めたりしている。パッと見だけなら、久々知の指は其処らの女子より断然綺麗だろう。1日三回は食べる豆腐のお陰だろうか。
「…なぁ、久々知くん。」
「なんだ?」
不意に掛けられた声に顔を上げると男はにんまりと楽しげに口元を歪ませる。笑い方は同じだがつい先程見た表情とは僅かに違う表情である。
「君だったら、どうする?」
「…俺だったら、」
ぐるぐる回る思考に久々知は目を閉じた。
瞼の裏には親しい面々が今では滅多に見れぬ様な服に身を包み笑いあっている。一際目を引くのは矢張り八重歯が特徴的な男であろうか。久々知は他には目もくれず八重歯の男を見つめる。
不図八重歯の男と視線が交わった気がした。併し其れは有り得ぬ事。
目を開ければあの男が変わらぬ笑みを浮かべて久々知を見詰めている。
「俺だったら、矯正しないかな。」
「…ほお、其れはまた何故?」
顎に手を添え首を傾げる男に久々知は口元に薄く笑みを敷きゆっくりと口を開く。
久々知の動作を目で追う男の瞳から感情は読み取れず、黒い瞳が久々知の動きに合わせゆっくりと動く。
「忘れないためだよ。」
「…忘れないため?」
きょとんとした様子で首を傾げる男に久々知は先程敷いた薄い笑みとはうって変わり優しく慈しむような笑みを浮かべる。
「ああ、忘れないため。」
何を忘れないためなのか、男は何処か冷めた瞳をしながら久々知の肩を軽く数度叩きけたけたと笑い声を上げた。
「そうかそうか。久々知くんは案外根に持つタイプなんだね?」
「…ああ、そうだよ。」
何を思い発した言葉なのか。
何を思い返した言葉なのか。

答えを知っているのは男と久々知、二人だけなのだ。








見つかりもしないものを探す君は哀れなのか愉快なのか。
どんなに泣いて叫んでも、どんなに愛してると笑っても、君が探しているものは二度と見つからないよ。



(だって、君が探しているものは僕の奥底に眠っているんだから。)








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Gimme your ANSWERさまに提出させていただきました。


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