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じり、と照りつける光に目を開ける。いつの間にか眠っていたようだ。私はゆっくり起き上った。如何やら寝袋は船のベッドより幾分か眠りやすいようだ。
 鼻をくすぐる匂いに誘われ岩場を出ると、そこにはフレイムさんが居た。
「おはよう」
「おはようございます、すみません私、何の手伝いもしなくて」
 小さな火が揺らめく上には、これも小さめの鍋。くつくつと何かが煮られている。
「大丈夫。寝れたなら何よりだ。ほら」
 フレイムさんは鉄のカップに鍋の中身を注いで、フォークと一緒に渡してくれる。中には麺と、昨日の残りだろう肉が入っていた。
「女の子の朝食って感じじゃないけど」
「いえ、そんな……いただきます」
 面をそっとすする。お肉の出汁だろうか、思ったよりもおいしい。夢中になって食べていると、くすりと笑われた。
 食事がすむと、フレイムさんは手早く片づけを済ませて太陽を見上げる。
「うん。今日中にはバオアーに入れそうだ」
「本当ですか?」
 二日野営は流石にと思って居た所だった。良かった。
 容赦なく肌を焼く太陽が痛い。私たちは日焼けを防ぐため、夜用のコートを羽織ることにした。確かに痛みは軽減したが、その分、暑い。汗で髪が頬に張り付くのが気持ち悪い。フレイムさんも同じようで、時折額をぬぐっている。
 火は中天に差し掛かろうかというところ、目の前にサボテンの森と言うべきか群生地と言うべきか――が現れた。フレイムさんはいたずらっぽく笑い、私を手招きした。
「涼しい……」
「それだけじゃないぜ」
「え?」
 彼は鞄からまたナイフを取り出して、サボテンの皮をはいだ。
「何して……あれっ、」
 ぴちゃん、ぴちゃん、と滴る水。私は驚いて切り口へ顔を寄せた。
「このサボテンは特殊でな、こうやって皮をはぐと水を取れるんだ。暫くすると自己再生するのも特徴的で――言葉より、実際にやってみた方が早いな」
「いいんですか?」
「何事も、経験、経験」
 私は、腰に付けた師匠さんにもらったナイフを取り出す。そっと翠の肌にナイフを寄せ、その皮をはいだ。落ちてくる水に手を差し出す。冷たい。
「これも、イフリート様のお恵みですね」
「え?」
 フレイムさんは目を丸くして私を見た。何かおかしなことを言っただろうか。
「ハイスヴァルムをお守りくださっているのは、火の神イフリート様でしょう?」
「あ。ああ、なるほど、そういう事ね」
 納得したように頷くフレイムさん。私たちの水筒の中身は冷たく新鮮な水に満たされていた。
「じゃ、もう一頑張りするか」
 名残惜しい日陰。そこを出て、日差しの元へ戻った。私たちはまた歩き始めた。
「しかし、イリスは砂漠の事知らねえくせに知識だけは有るよな」
「私の住んでいたキナサという町は、比較的マッフェン寄りで、其れなりに発展していましたし……教会でも吟遊詩人さんにならいましたから」
「だったな。なるほどな」
 ふむふむと感心したように頷く彼に、ちょっと照れくさくなる。
「俺なんか、物心ついた時から師匠の下で剣の修行ばっかでさ。もちろんハイスヴァルムは好きだし、師匠や兄貴も好きだから文句なかったけど。でも勉強なんて全然したことなかったぜ」
「……お師匠様っておいくつなんです?」
「うーん、解んねえ」
「ぷ」
 嘘やごまかしでなく、本当にわからないというような首の傾げ方。私は笑ってしまった。
 ――笑えるのだ、私は。
 募る申し訳なさに、私は俯いた。
「あ、笑ったな」
「すみません」
「うん、やっぱ女の子は笑顔が一番だ!」
 見上げるとそこには、変わらない太陽の笑顔。私は……私は、笑ってもいいのだろうか。
「フレイムさん、私……」
「うん?」
 微笑み。わたしは、私は。
 微笑み返すことを、彼らは許してくれるだろうか。
「いえ、ありがとうございます」
 私は笑った。
 眼前に、突如広がった森を、心いっぱいに移しながら。

――Highthvalm Episode End――



Highthvalm Episode4
【Can you hear my voices?】






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