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「願い事・・・別にあらへんねんけど」
「そんなことはないでしょ、テニスとか勉強とか・・・」


くるくるとペンを回しながらはあ、と溜息をつく。
今時中3にもなって誰が学校で笹に願い事下げたりするんやと溜息だって着きたくなるの気持ちぐらい察してもらえるだろうか。


「みょうじは何にしたん、」
「財前君が教えてくれたら教えてあげるー」


だから第一に俺は決まっとらんて言うてんのに・・・。
テニスもそりゃあ好きやし、受験生だから勉強はしなきゃいけない。でもわざわざ紙に書いて空に願う暇があったら練習しとった方がよっぽど有意義やと思う派の人間だから仕方ない。


「財前君は占いとか信じたりしないの?」

「おん、嘘っぽいし・・・そんなんで運勢なんか決まってたまるか」
「そっかあ・・・私は好きだけどな占いとか」

神に願って上手くなれるんやったら、努力なんて、才能なんて介在する余地が無いじゃないか、と。そういったら難しそうな顔をしていかにもといったように腕を組んで考え始めたようだ。


「うーん、いや、それはそうなんだけど・・・願掛け?って言うのかな。背中を押してもらうような感じ。だから無駄では無いと思うんだけどな」


それにそういうのって信じたモン勝ちでしょ?と訊かれても、曖昧に頷く事しか出来なかった。信じたモン勝ち、なんかウチのテニス部にありそうやな・・・それを脳内で先輩の声で再生してみると案外ハマってる…いやいやそうではなく。
それにしても背中を押してもらう、というのは何とも新しい考えかただった。どうも他力本願な気がしてならないのは変わらないが、今まで思っていたより悪いイメージは払拭されつつあった。それは目の前で微笑む彼女の言葉だったから、なのかもしれない。


「お願いするのはタダでしょう?」
「まあ、せやな」

「神様ってのも信じてみても罰は当たらないと思うけど」
「たまにはそんなんもええんかもなぁ」


さっきまでの意固地な態度から一変して、態度を翻したのに驚いたのかぱちぱちと可愛らしく彼女は瞬きを繰り返していた。さらさらと願い事を書いたのを見て、彼女も一度書いたのを消して今度はペンで書き始めた。


「やっぱりテニスかあ・・・」
「何勝手に見とるん。まあ、俺はそれ以外あらへんしな」
「財前君らしいっちゃ、らしいよね」
「みょうじは、勉強か・・・」


目指してる高校があるんだ、と嬉しそうに笑うみょうじを見て心臓が跳ねた。でもそんな表情を見られたくなく、さよかとだけ呟いて席を立って笹に括りに行った。本当は、何を書きたかったのか俺以外誰も知る由は無いけれど。みょうじともっと喋れるように、なんてどこの乙女や、有り得へん。誰にも見られんかったとしても俺が恥ずかしくて死にそうや。


「願いごと、叶うと良いね」

「おん、みょうじもな。応援してるで」