最近目に見えてなまえっちの元気が無い。いや会っているわけではないから、目に見えはしないのだが。なんとなく、声を聞いた感じで分かるほど落ちている気がする。どうかしたかと尋ねてもそれとなくはぐらかされてしまうし、メールや電話をしてくる回数がめっきり減った。かといってこちらからの電話を取らなかった事も、メールを返信しなかったことも無い。そのせいもあって最近は電話を掛けるのも躊躇われる。なまえが好きだという気持ちとしては前と変わりはしないけど。彼女のことを考えれば考えるほど、どうしても彼女の声が聞きたくなってアドレス帳から呼び出した。
「……あっれ。」 ──ただいま電話に出ることが出来ません。…
無機質なアナウンスが続き、それにうんざりして電話を切った。今まで電話に出なかったことなんて無いのに。それも日中ならともかくこんな時間に、なまえが家にいないはずがない。もしかして、なんてしたくもない想像をしてしまうのはきっとあれの所為だ。緑間っちが彼女に浮気されて大変なことになったのは記憶に新しい。いやいや、なまえはそんな子じゃないッス。かぶりを振ってコールバックを待つことにして、ベッドに倒れこんだ。
…目を覚まして、慌てて携帯を見るとまだ夜の12:00過ぎだった。寝過ごしてはいなかったらしい。着信履歴の代わりに2通のメールが来ていた。 10:32 電話出れなくてごめんなさい。何かあった? 11:04 涼くんもしかして怒ってる?今電話してもいい? 律儀にメールの返信を待ってくれていたのだろう、そんな彼女の健気さに申し訳なくなりつつも、すぐさま電話をかけた。
「っもしもしなまえっち?」 「……ん、りょーくん?」
3コール目で電話に出た彼女はどこか眠そうだった。俺と同様に連絡を待ってくれていたのだ、またもや申し訳なさが込み上げてくる。 「…電話出れなくて、ごめんね。」 「いや俺のほうこそ。何かあったんスか?」 「……うーん」
言えないことなんスか?と追い討ちを掛けそうになるのを必死に堪える。俺が信じなくてどうするんだ。なまえだって俺を信じようとしてくれるのに。
「ちょっと、友達に飲まされちゃって……」
一瞬黙ってその意味を理解した途端、自分が嫌悪に顔を歪めているのに気付いて何か言わなきゃと思う。なのに何も言うことが見当たらない。なまえはかなり酒に弱い。というかすぐ酔い潰れて寝てしまう。そんな無防備な姿他の奴に見られたくない、というのが本音で。友達って男じゃないよね?なんて聞けなくて。
「…ああ、でも女の子ひとりだから!」 涼くんも知ってるでしょ?と言われた名前は確かに高校時代からなまえと仲の良い友人のことだと分かった。なんだ、と安堵して溜息を吐くと不思議そうな彼女の声が電話越しに届く。
「…もしかして男子だと思った?」 「いや!そんなこと全然っ………スイマセン疑いました。」
ここで嘘は吐きたくない、と思った。それがなまえを傷つける結果になっても。思ったことはきちんと言おう。嫌なことは嫌って。不安なことは不安って。彼女は付き合い始めたときにそういったのを思い出した。 「…ほんっと、正直だなあ涼くんは。」そんなあなたが好きなんだけどね、と恥ずかしげも無く言う所為で何故かこっちが赤くなってしまう。だって、と繕ってみても続く言葉が見当たらない。
「なまえっち。俺明日オフなんスけど」 「…………うん」 「どっか行きましょ!一日ずっと。ね?」
いいよ、明日楽しみにしてるね。という声で電話を切ってベッドに倒れこんだ。今最大級にニヤけてる。誰にも見せられる顔してないだろうな、と思いつつも単純な俺はどうしようもないくらいの幸せで満たされてゆく。
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