アイウタ | ナノ






幼い頃から、歌手になることが夢だった。


中学入学時にその夢を実現させようとスクールに通い始めた。海常高校を卒業してから、専門学校に入学して2年目になる。
歌うことは勿論好きだったのだが、それと同じくらいに好きなものが今の私にはあった。彼氏の黄瀬涼太だ。


「なまえっちはきっとすごい歌手になれるッスよ!」
高校に入って私が屋上で歌っているのを見つかったのが、彼との出会いでお互いに惹かれあうのに時間はかからなかった。トレーニングが上手く行かず、何度も諦めかけて挫けそうになったとき、いつも彼がそう言って支えてくれた。


涼くんも私が音楽が好きなように、バスケが大好きだった。
いつだったか、誰に言われたかは、ももう忘れてしまったが。試合をしている時の彼と歌をうたっている時の私は、同じ眼をしているといわれたことがあった。


そんな彼はバスケの強い大学に入り、私は専門学校に通うことになり、離れ離れになってしまった。
所謂"遠距離恋愛"ってやつ。
「離れててもなまえっちのことずっと好きッス」
─もしよければ、お互い卒業したら一緒に住んでくれませんか?

そんな彼に返す言葉は当時では肯定しか考えられなかった。ただ、卒業するまでと言うのは本当に長くて何度彼のことで悩んだかなんて数え切れやしない。


お互い忙しくて会う機会なんてほんとに、めったになくて2ヶ月に1度会えれば良いほうで、長いときには半年会えなかったこともあった。
「涼くんは不安になったりしないの?」
「そりゃ、いつでも不安だし。なまえ可愛いからもう他の男に目つけられてないか、はらはらしてるんスよー」
いやいや可愛くないよ、と否定すると
「それでも俺はなまえっちのこと信じてますからね」
と言い包められてしまうから、私も信じるしかない。


信じてる、信じてるよ私だって君のこと。
でも不安になっちゃうんだ。怖いんだよ、本当は
スポーツ万能で、私にはもったいないくらいカッコよくて。
私なんか釣り合わないんじゃないかって。


一週間前に会ったとき言ったよね。
「あーあ、なまえっちがそんなに可愛くなかったらよかったのに」って。
何それ、意味わかんないってあの時は誤魔化したけど。
本当はそれは私がいつも思っていたことだったから。
「涼くんがそんなにカッコよくなかったらよかったのに。」
って言いたかったけど、それを言ったらこの胸の不安を全部、君への認めたくない"疑い"を全部。ぶつけちゃいそうで、それで君に嫌われたくなくて、そんなこと言えやしなかったんだよ。




会いたいよ、会って話して抱きしめてよ、
もっと好きだって聞きたいよ、ねえ。
怖いよ、他の人のコト見てるんじゃないかって不安になっちゃうんだよ。なんて言いたくても、嫌われるのが怖くてそんなこと言えない私は、臆病者以外の何者でもないんだろう。