※暗いお話
※黒子と双子

「テツヤあ」返事は無い。けれどただのしかばねでは無いらしく、本に落としていた目線をこちらに向けた。何ですか、という目をしていた。どこか煩わしそうだった。でもそんなこと関係ない。「きらいだよ」私が、テツヤのこと。「奇遇ですね、僕もです」貴女のことが嫌いだと私の言葉に驚いた風も無く平然と付け足して、またすぐにページを捲る作業に戻っていった。テツヤのことが嫌いだ。自分のことは、もっと嫌いだ。暇で仕方がなかったので、本棚からいつか彼の読んでいた本を取り出して、彼のベッドの上で読むことにした。…のも一瞬のことで一ページ目から夥しい漢字の量と私の分からない単語ばかりを選りすぐったような活字の羅列にぱたりと本を閉じた。まあ、最初から理解しようなんて思っていない。出来心だ、そう、出来心。出来上がってしまった、心。右腕で視界を遮る。テツヤほど引き締まっていない二の腕の圧迫感が我ながら鬱陶しい。と言ったものの、これはあくまで彼と私を比較した問題で多分傍から見たら、彼も華奢で頼りないくらいに細くそんなに高くない身長。私と変わりやしない。だからこそ嫌いだ。鏡写しのように瓜二つな私たちは、双子、─一卵性双生児という説明で片がつく。私がテツヤのことが嫌いなのは既に同族嫌悪ですらない、同族嫌悪ですらあってくれない、同族嫌悪を通り越した自己嫌悪に近い。近親憎悪というやつかもしれない。自分を嫌いであるように、テツヤを嫌いなのもまた自然なことだった。自然であり、必然。無造作に伸ばしたビターチョコレート色の髪。そろそろ染め直さなきゃいけないかもしれない。「って、痛いんだけど。引っ張んないでよ」「抜ければいいんですよ」うわ、今コイツ全世界の薄毛を敵に回した。手櫛で梳かしてみれば幸いにも髪は抜けていなかったようで安堵した。お返しだといわんばかりにベイビーブルーに手を伸ばした。が、直前でそれは叶わず自ら手を引っ込めた。それと、最後に見た自分のくすんだ空の色とはあまりにも違っていたから。私が彼の髪に触る権利なんてないように思えた。似たもの同士の決定的な違いを、思わぬ形でまざまざと見せ付けられた。圧倒的な敗北が私の心に突き立てられる。裏切り。そんな言葉が頭を掠めた。急に寂しくなった。半身を失う痛み、痛みですらない喪失感。半身なんておこがましい。「だいっきらい」もう一度呟いた。今度はテツヤも振り向かない。もしかして呟いてすらいないのかもしれない、聞こえていないのかもしれない。うつぶせに彼の枕に目を押し付けた。