※男主

高嶺の花、という言葉をよく耳にする。良くも悪くもその例として主に上げられるのは、生徒会役員で書記を務めている、紅葉知弦さんとか。一方で同じ生徒会役員でも、勿論同じ学年で交流が深いからという理由もあるとは思うが、副会長の椎名はあまりそういうところを感じさせるやつではなかった。

「椎名!そろそろ交代ー」

男子も真っ青なゴール壊れんばかりのダンクシュートを決めて、笑顔を振りまいている彼女に呼びかける。たったった、と気味の良い音を立てて駆けてコートを出ると、ベンチに腰掛けてタオルを手に取った。

「ほらよ、持ってないだろ?」
文字通りの飛び入り参加。例の生徒会の活動が終わった後に、体育館を覗いてたらバスケやりたくなったから!というなんとも椎名らしい理由で練習試合に入ってきた。それを断りきれない俺に責任があるといわれてしまえば、ぐうの音も出ない。運動する気は無かったのか、最低限のタオルや着替えほどしか持っていなかった彼女にスポーツドリンクを渡す。

「おお、サンキュ。」片手で俺を拝んでから、潔くペットを開けて口に流し込む様子を見て、俺は苦笑した。

「てか、試合出ないのか?」
「とりあえず今回はなー…」

適当にコートの中の仲間に目を向けるが、椎名が前半に出てしまったし、余裕で勝てそうだ。俺の出る幕は無いかなあ、と少し寂しくなるくらいの点差をつけられた。

「お前のやってるとこ見たかったんだけど」

無意識か、故意か。前者だろうな…いや、むしろ断言できる、前者。財布+全財産をを掛けてもいいくらい。…あ、自分で言ってて哀しくなってきた。それでも純粋に喜んでいる自分がいるんだなとつくづく感じて、苦笑いする。友達として、でも勿論嬉しいに決まってる。それだけ溺れているといってもいい。

「久々に次の試合一緒に出るか?」
「マジで!よっしゃ、トリプルスコア決定だな」
「それはやめてくれよ。手加減は忘れずに」

えー、と口を尖らせる姿すら可愛いと思えてしまう。年相応の邪気やそういった類のことを、まったく感じさせない彼女が、同年代の女子と比べて一際輝いて見える。太陽のようだ、なんて言い過ぎかもしれないが、でもときどきそう思うことがある。

髪を結いなおす彼女の隣で、何となく彼女にエネルギーやらやる気やら元気を引き出されつつ、片手でもう片方の手首を引っ張って足を回して、んじゃ行くか、とボールを弄りつつ椎名に笑いかけた。