自分が人並み以上には変人を友人に持っている自覚はあるが、その交友関係の中でも、中だからこそ、彼女は珍しい部類の人間に含まれると思う。

「秀吉くん!」

 フェンスの際に寄りかかっているワシと目が合うと、嬉しそうに微笑んで駆け寄ってくる。手に持った弁当は二人分だ。正面にぺたりと座り込んでクロスを開く。

「今日は洋食にしてみました!どうかな」

 得意げに開けられた弁当箱の中身は、ラップに包まれたサンドイッチの数々。一見してタマゴ、ハム、ツナなどオーソドックスなものから、レタスと照り焼きなど男子高校生の食欲をいかにも誘うメニューだった。見目も美しく栄養のバランスもよさそうだ。ひとつひとつは大きくないものの種類があるため、量に困ることはなさそうだった。

「おお、どれも美味しそうじゃのう」
「秀吉くんって和食のイメージあったから、今まであまり手が出せなかったんだけど……」
「そうかの?あまり意識したことはないが」
「でも朝はごはん派でしょ」

 ごはん派、という言葉には些か語弊を感じる。基本的に朝食を用意するのは母親で、小さな頃からそれが習慣化するものだろう。それが一人暮らし、ひいては将来家庭を持つことになった場合に、やはり自分が慣れ親しんだものを作ることになるのだから。
 しかし、朝にパンを咥えて登校するという行動に違和感を覚えるのは、やはり彼女の言うようにごはん派故なのかもしれない。そういえばサンドイッチの昼食というのも、いつ振りか分からない。
 手に取った照り焼きサンド。素朴な食パンに水がしみることもなく、新鮮なレタスやきゅうりの食感が照り焼きの旨みと見事にマッチしている。
 自分のサンドイッチにも手をつけずに、なまえはこちらを伺っている。欲張って頬に詰めすぎたものを咀嚼しながら、少しでも早くこの満足感を伝えるべく親指を立てて頷いた。

「良い味じゃ」

 烏龍茶で喉の奥に流し込んでもう一度そう伝えると、安堵したのか嬉しそうに買ってきてあった紅茶に口をつけた。

「不味かった、って言われたらどうしようかと思った」
「お主はいつもそれを言うのう……なまえの作ってくれた料理が不味いわけなかろうに」なまえの作ったものであれば、例えどんなに不味かろうと美味いと言って平らげる自信はあるがの。

 そう付け加えると、飲みかけの紅茶を吹き出しそうになるのを慌てて両手で押さえて防いでいた。なぜ唐突に咽たのか。

「秀吉くんってさあ、割と無自覚でそういうこと言うから性質悪いよね」
「なんのことかのう」
「あれ、自覚してる?確信犯か!」

嗚呼、これだからやめられない。膨らませた頬を僅かに紅潮させているなまえは無条件に可愛いと思える。こうしていろいろな反応を見せてくれるから、こちらとしてもついいじめたくなってしまうのだ。それを小学生レベルだと称されてしまえばそれまでなのだが。むう、そう思うと明久を小学生クラスだとうかうか笑ってもいられないのかもしれん。

「すまんかったの」
「……悪いと思ってないでしょ」

横目でじろりと睨みつけられて、そんなことすらも可愛く思えてしまう。こんなにも特定の人間の行動の一つ一つにまで愛おしさがこみ上げてくるのは、大袈裟でもなんでもなく生まれて初めてだろう。

「悪いとは思っておるが、やめる気は、ないかものう」
「それ、余計性質悪いよ」

「好きな子ほど、いじめたくなるというじゃろう?」

得意げに口の端を吊り上げて言うと、期待を裏切らない反応が返される。耳まで真っ赤にして俯いて、バカ、と。普段から訳もなく他人を罵倒したりしない彼女の、恥ずかしがる様から来るそれを、甘んじて、喜んで、受け止めるのだった。