いのちの灯火
「話にならねえ…お前阿呆だろ。」
『なー!阿呆って言ったほうがアホなんですよ…!』
「‥‥疲れる餓鬼だ。」
お顔が分かりやすくお疲れですね小十郎さん。
俺も同じ立場だったら心底理解できないしひと思いに叩き切りたいなって思うもん。
あっ、そうか携帯電話でも見せれば納得してもらえるかも…!
いやでも没収は免れないよなそれは困る最近バックアップ取ってなかったし、この作戦はなかったことにしよう。
他に何かないかとポケットをごそごそ漁ってみると、彼が警戒して目付きを鋭くした。
爆弾出そうってワケじゃないんです。ちょっと刀から手を離してお願い。
…‥おお、いいもんあった。
『証拠です!』
取り出したのはジッポ。
カチン、と慣れたように火を付けて見せれば…‥おおっと、この表情は新しい。
あの小十郎さんは無言のまま、細っこい目をギリギリまで開いて凝視しています。
俺は初めてみる表情に感動するよりか、吹き出すの堪えるのに精一杯であります…!ぷっぷぷ〜〜www
「…わかった。百歩譲って信じてやる」
『!!?』
マジかよすごくチョロい!
チョロ倉さんウェ〜〜イ!
「ただし、だ。」
なに条件付き?!
ぬか喜びじゃないよねなに助けてくれるんだよね…!??
そうして躊躇うように目を細めて言いずらそうにするもんだから俺は疑問符打ちまくり。何をいきなりそんな遠慮がちなのだ。何が望みなのだ。
たっぷりの沈黙の後、やっと口を開いた小十郎さんが出した条件は…
「それ、よこせ。」
『このジッポを、ですか?』
「易い条件だろ?」
『結構高かったんですけど…いいです、手ェ出してください。』
素直に手を差し出す小十郎。
それがいやに愛らしくって、俗に言うオラニャン系なのかしらとか考えたら可愛い可愛い可愛いなー!
小十郎の掌にそっとジッポを置いたら、大事にしてねって気持ちを込めてその手を握りこませた。
『ボヤ騒ぎは起こさないでくださいね。』
「ああ、有難う。」
『‥‥‥ど、いたしまして。』
そんな優しい声で有難うなんて言われると思わなくて焦っちゃった。
重ねた手をそっと離すと、さっき俺が付けて見せた時に憶えたらしく、一度火を着けてみてから満足げに懐にしまいこんだ。
きっといい野菜が育ったときもこんな顔するんだろうなぁ…こっちまで頬が緩む。
「時にお前。未来からきたとか言ってるが、行く宛てはあんのか?」
『あんまり考えないようにしてたんですけど何を隠そう無一文宿無しです。』
「成る程な…異国語が話せるとなりゃ政宗様も気に入るかも知れねえ。ついて来い、俺が口利いてやるよ」
げげ幻聴が聞こえた!
何もかも俺に都合のいい幻聴が聞こえた!!
なんで俺相手にこんなに微笑んでくれちゃってんの?何が起きているの俺の妄想なのどうなってるの…!
いやいや俺の妄想なら濃姫でてきて、おっぱいぱふぱふしてるはずだ妄想なんかじゃない!!
てことはどーゆー事だ…
そう!これが現実ってことだ!
『ほんとに、ほんとに…?』
「武士に二言はねえさ。」
『――――…ッ!!
おれ、俺っ、名前! 苗字名前ですっ』
「俺は片倉小十郎。
奥州筆頭、伊達政宗様に遣えてる」
知ってます!
大好きです!
俺がMAXキラキラした眼差しを向けたのがウザかったのか、不意にそっぽを向かれた。
いやこんな展開にテンション上がらないとか無理ですよ!でも急に距離感縮めてビックリさせてごめんなさいへへへ!
「オイ、何つっ立ってんだ。早く馬乗れ」
『…ワァおっきーい。』
根っからの現代っ子な俺は、ランボルギーニは乗ったことがあれど馬には乗ったことがない。馬乗りになってもらうなら女のコがいいし、足場の不安定な場所はあまり得意ではない。(困惑のあまり余計な情報をお届けしています)
硬直している姿に痺れを切らした小十郎さんが身を屈めて俺の腕を引く。その力のままに彼の胸に収まるような形で馬に跨った。
まではいいんだけど…
こっっっわあああああ!!!
死ぬ死ぬ死ぬううおぉぉお舘さまああぁあぁ!!
怖くて怖くて怖くてもう!俺いま自分でどんな顔してるか分かんないけど、見られたら全人類から確実にドン引きされるような人間ならざるツラを晒してる自信は十分にある!!!
城までの距離を教えてほしい。それによってはようやくジッポで繋ぎとめた俺の命の灯火が消えかねない。
ああ、もう尻の感覚がない。
たすけてくれ。
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