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初恋センチメンタル
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早朝、覚えのある声に名を叫ばれた。

ヤツ… 名前がいるのは主の部屋に他ならなく、何かあったものかと早々に畑仕事を切り上げ部屋に向かったが…




政宗様が甲斐に行くといって馬を出したのは記憶に新しい。

飯を食わずに馬に跨ごうとするところを一喝し、食事を取らせて見送ったものだ。



俺が部屋に到着したとき既にそこは蛻の殻と化していたが、彼奴に何か大事があれば政宗様が気付かれていたはず。

ならば名前の身に何かあったとて、おそらく大したことではないだろう。朝っぱらから無駄な体力を消耗したと俺は畑に戻るべく踵を返す。





(‥‥そういや、)





部屋に先日なんだかんだあり手に入れた南蛮野菜の種があったな…

何でも食すのが恐れ多いほどに神々しい野菜なのだという。野菜に畏怖するってえのも妙なもんだが、好奇心にゃ逆らえねえな。





「野郎共に食わせてやるか。」




ふと人知れず口端を上げ、何処となく軽い足取りで部屋に向かう。

野菜ってやつは手間暇かけりゃかけるほど、それに応えてくれる。油断も出来ねえが政宗様や野郎共に美味いモン食わせてやりてえからな。

美味い料理ってのは心なしか疲れが取れるし、やる気も湧いてきやがる。戦にはかかせねえ代物だ。





南蛮の珍しい野菜に心奪われた俺は名前のことなど既に欠片も頭になく、ただ浮わつく気持ちと緩む頬を抑えて歩を進めた。











――――――…





『うぁ‥っク、痛え…!』




部屋には先客がいた。
俺の部屋なのに先客なんざいて堪るかとも思うが、襖の向こうからは確かに先刻俺を呼び逃げしやがった張本人の声がする。

文句のひとつでも告げてやりたいところだが襖越しにも届く吐息がいやに艶めかしくて、むくりと逸物の尖端が起き上がる感覚にどちらかというと股に下がったブツに説教を垂れてやりたいところだ。




風の音にも満たない小さな舌打ちをくれて、俺は襖を引いた。






「畳を汚すんじゃねえぞ。」




畳は湿ったまま放置するとカビて仕方がねえ。その前に手を打つにしても網目の奥まで浸かっちまえば終わったも同然だ。

それ以前に人様の部屋で自慰行為に耽るてえのは何事だ?多少の危機感がないとイけねえ身体か?重症だな。

…その状況を少なからずオイシイと思う俺が一等重症だろうが。







…成程、こいつァなかなか堪える。

色恋沙汰どころか女にすら興味の薄れた俺が、ガキに…ましてや野郎相手に欲情してるときた。

一体何故だ。
こいつが俺の逸物の産みの親みてえなもんだからか…?




そんなもん、判らなけりゃ確かめるまでだ。







「あわよくば部屋を変えてほしいもんだな。」




元より俺の方が上背は高いが、見下ろすとひどく名前が小さく見える。

奴の逸物も縮み上がってやがる。






『実は名前、懐妊しやした。』

「ほう、めでてえな。式はいつだ?」

『小十郎さんの頭がめでたいなー。おしべとめしべの勉強をしてらっしゃい!』





‥‥空気を読め。俺はボケてやったんだよ

おしべとめしべ… 押部と、召部?人の名か?
学ぶ意味が判らねえ。押部と召部は何かするつもりなんだろうが…‥ああ、懐妊しやがんのか?いや、良くわからねえ。







「それはそうと、人様の部屋で御開帳たァどういう訳だ?」

『どうもこうも、アナタの主が…いや正確には主の分身的なアレが俺にバックアタック繰り出してきた訳ですよ。』




 政 宗 様 ァ !!!!!




この伊達軍がどうも男臭いのは貴方様の意向に御座りましたか…
君主が衆道たァいささか認めたくない真実ではあるが…この小十郎、政宗様を信じております!



気の迷いと!信じております!!!






「理由になってねえ。全くあのお方は…素性も知れぬ野郎に手を出すなど」

『いやいや素性知れてますよね、未来から来た人型人間ですよ。』





一々人の揚げ足を引っ張るのが好きな奴だ。

それにしても、俺は何だってあんなに馬鹿正直にコイツが未来人であると信じたのか…
あの着火装置も工業の発展した日本国内のどっかが開発したのやも知れねえってのに、我ながら甘かったな。





だがコイツの阿呆面を見てると、疑うのが馬鹿臭くなってきちまっていけねえ。

ったく、微笑ましいったらないじゃねえか…













――――――…




それから小半時もしていない。

俺は部屋に一人、呆けるのみだった。






何故か。


あれからどういった流れか前戯に発展した。
不本意ながら奴を欲する気持ちも少なからずあり、欲望がまま俺はアイツの逸物を口にくわえた。

多少の羞恥心はやはり免れず、無心に無心にと念を唱えていたにも関わらずあの野郎…





『さすが。チンコ咥えても様になります、竜の右目さん』




とかほざきやがって…!

屈辱に加え、んな呼び名で呼ばれたんじゃ政宗様を裏切る行動ではなかろうかなどと脳が働き、顔を歪めた刹那に奴の逸物に八重歯を喰い込ませてしまった。

そうしたら終いにゃ、




『萎えちゃいました。
よし!今日はここまで!』





 舐 め て ん の か 。



第一結果として奴が優勢になっていた事自体が不可解だ。俺の部屋で自慰行為に耽った挙げ句、人様を巻き込んで萎えただ?



 舐 め て ん だ な ?









「いけねえ、畑に戻らなくては…」



満たされずしてポッカリと空いた心の穴。喉の奥に何かが込み上げ詰まるような感覚に陥る。
相手が去って尚も立派に褌を押し上げ天井を仰ぐ逸物が、その感情をより一層煽った。

竜の右目ともあろう者が刀も振れねえ若僧一人に翻弄されているってえのか?





「武士の名折れだぜ…」





普段なら確実に、俺は間違った行動は起こしてねえと、奴は噛みちぎられたとて文句は言えねえと言い張れた。

しかしどういうこった。
嫌われたもんかと乙女のように不安がる自分がいる。

我ながら気色が悪いったらねえな…







俺は未だに反っている逸物を余所に、南蛮の種を手にして畑に足を進めた。






(うまく育ったら、名前に食わせてやろう。)





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