悪魔くんといっしょ
―――――…
ここは何処だ!
見渡す限りが真っ白。
足場までもが真っ白で、隅も角もあったもんじゃない。
浮いてるのか足着いてんのかも判らない。足の裏にこれといった感覚がないことから、恐らく浮いてるんだとは思う。
何がどうなっている。
さっきまで暇で暇で天晴れなほど暇で、ゲームやろうとしたとこまでしか記憶にない。
何おれ寝たの?
俗に言う寝落ちってやつなの?
夢の中ならこの異世界にも何とか納得がいく…
いやいかねえよ。
そんなすぐ寝れると思います?
思いませんよねー。常識的に考えて無理ですよね全然眠くなかったし、むしろ今からおっぱい忍者を虜にしているあの天竺向かいそうな風貌のオニーサンをボコボコにしようと思ってたとこだし。
もうなんで俺こんな状況で余裕ぶっこいてるの??おかしくないか、冷静すぎないか。
何というか、むしろ、ドキドキしてまして。
頭じゃクソも理解できてないんだけど、なんだろこのワクワク感…!
「さ〜すが、なかなか肝が座ってるね〜。」
んっ?
‥‥‥(⌒▽⌒)
『誰だキサマ!』
「僕ね僕ね〜、悪魔だね!」
な訳あるか〜〜い!
とか咄嗟に口が言いそうになったけど、見た瞬間に “あ、こいつ悪魔だ!” って思ってしまったから言えなかった。
と言うより、思わない方がおかしいってもんだ。
まず見た目がもう悪魔。
黒い矢印みたいな触角にしてもコウモリみたいな翼にしても、何をとっても悪魔そのものだ。
加えて細くてつぶらな瞳や笑って見せた八重歯やら…とっても可愛いけどもう悪魔。ゼッタイ悪魔。
『悪魔さんが俺をこんなところに連れてきたの?』
「お、話が早いね〜。」
悪魔なんて出てきた時点でここが悪い夢ってことは目に見えてるし、それならさっさとオサラバしたい。そして現世で目覚めたい。
「手っ取り早くそのチンコもいでやろ〜と思ったんだけどさぁ〜…」
『ンンン??!?
えっ、ちょ、何、こっっわ!』
反射的に股間を隠す。
まだセーフだまだ付いてる、しっかりずっしり付いてる…よしよし…
“もぐ”とか生々しい!なんなの!
『あの…悪魔くん。』
「な〜に?」
『どうしてちんこもがれちゃうのかな…?』
見ず知らずの人間…否、悪魔にイチモツをもがれるようなことをした覚えはない。
日頃の行いが祟ったなんて事もないはずだ!
こう見えてちゃんと彼女が出来たらひとつひとつ順序を追って情事に励むし、ヤリ目みたいな下衆な真似しないよ?!!
呪いか…!だれかの呪いなのか?!
誰だよちんちんもげろとか念じてるヤツ!えっち!ヤバァン!野蛮な人よぉ!
「何人も女の子泣かしてるからだよ〜。」
『いやいやいや、おれ彼女はスゲー大事にする男だよホントだよ!』
「じゃあセフレは〜?」
『セフレはえっちするだけの関係だし、そんな必要ないでしょ。』
「でも昨日みたいなこと、初めてじゃないよね〜?」
『昨日みたいな、って…』
「セフレの子が、彼女だ〜って勘違いしてたコト〜。」
何も言えん。
白状します。
セフレにぶっ叩かれるような事件が昨日を含め過去に計六回ございました。
懲りないとかじゃないんだ!まって言い訳だけさせて!
俺が元々そんな惚れっぽくないから、彼女ってやつがどうにも出来ないくてホラでも“彼女”っていうからには本気で溺愛できる女性が良いじゃない?妥協しないの、素敵でしょ?でも本気で愛せるヒトが見付かるまでの間にも性欲も精液も溜まっちゃうしそうなればセフレ作るのは道理ってもんで…加えて暇だから遊びに誘われたらそりゃあ普通に行くし、円満な関係築きたいから気が向けばプレゼントとかもするよね。あれっ、いま思えばそれが良くなかったのか…?いや確かにおれが彼女にするのは本気で惚れた女って決めてるとか誰も知る由もないしな…
『ええ〜〜〜…俺って悪魔とか出てきちゃうほど恨まれてんの…?』
「ううん、み〜んな未練タラタラでね〜?キミは無自覚に繰り返すし、そろそろ痛い目見せた方がいいかな〜って。」
否定はされたけど一抹の不安は取り除けなくて、縋るように浮遊してる悪魔クンを見つめたら目を逸らされた。救いの手はないのか!
コホン、と小さく咳払いをして、悪魔クンが俺のほうに向き直る。
『会ってみたら君もけっこ〜苦労してるみたいだし、息抜きしといで〜?』
「なに天使みたいなこと言って…うおあああああ!!!」
おちてる!!!落ちてる!!!!
元から足なんて着いてなかったけど、これは間違いなく落ちていますね!風を感じます!
これが息抜きって斬新すぎだな?!
ぶっちゃけ俺的に朝起きて癖でセットしちゃったヘアスタイルが崩れて物っ凄く不快なんですが!
バス酔いとか船酔いとか正直激しい方だし、あと一分続いたら確実にげそげそしだすと思うんですが!!!
とか考えてる矢先に地面に叩き付けられまして。
腰を強打しまして。
大切な大切な腰を、強打しまして。
『わ、青くさ。』
見渡す限り雄大な、森。
まさに“木”という字を三回書いた感じ。寧ろ五回は書いときたい感じのフォレスト。
ツンと鼻先を刺激するこの青々とした匂いでリラックスからは程遠い。
現代っ子に緑で癒されろっていう時点で無理があるだろ!
ここに住めとか言われたら俺もうシヌ。
「だいじょ〜ぶ、ちゃんと楽しい世界だよ〜。…多分」
『その多分に俺はいま人生最大の不安を抱いた。』
「先に遊ぶってゆったのは君だし僕からの助言はナシね〜。じゃ〜バイバ〜イ」
『ままままてててまてま』
…行ってしまわれた。
――…先に遊ぶってゆったのは君だし
まさか。
でももしそうだとしたら。
ああ嫌になる。何でこんな不安ってもんがないんだろ。
真っ白い世界に落ちたときからずっとだ。ずっと、期待で胸が高鳴ってる。
しまいにはニヤけてきた、掌に汗滲んでるし。
ありがとう悪魔よ。
なに起こるか分かんないけど今楽しくてしょーがない!ちっちゃい時に初めて“おかあさんといっしょ”観たくらい楽しい!!
…アッ、携帯圏外。
もーヤダ、帰りたい!!!!
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