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ゆびきりげんまん
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浮かぶ疑問については何も訊かなかった。



国同士の問題は俺がどうこう言うような話じゃないし迂濶に口を滑らせて首が飛ぶのは御免だし。

こうやって敵対してる軍の人間と話が出来んのは、他でもなく真田が俺を伊達軍に世話になってる人間だなんて知る由もないからだし。

こんな心地良い空間、手放して堪るか!






『ありがと真田さん。
アンタのお陰で今日は気分がいい』

「某も、名前殿と居るとなんだか安心するでござるよ。」

『お、油断してるとキスするよー?』

「きす…で、ござるか?」




判らないだろう判らないだろう!
真田だけじゃなく周りの人間も判んないと中々都合いいね。自己満ってやつだけど気味がいいね。

俺だけ知ってる優越感と、何気に良くないこと言ってる背徳感! ぞくぞく!







「此処でござる。」

『すげ、年季入ってるなー… 有名なお店なんですか?』

「某は奥州で一番の団子屋と心得ておる!」





もう何ていうか…見りゃわかる。

もうすぐ昼時だってのに、もしかして昼飯が団子なのか?店に収まりきらない人数が訪れてるし…

向かいに蕎麦処もあって人はそれなりに来てるみたいだけど、この団子屋に比べたら序の口だ。店から人が溢れてんもん!





『忙しそうだな…』

「むむむ…これでは団子にありつけぬぅ!名前殿、共に助太刀致そうぞ!!」

『ハァ?!ちょ、いきなり何事ですかっ』




腕を引かれるのは今日だけで何回目だ?

茫然と立ち尽くしていた身体が突然の行動についていかず危なく転びそうになったが、地面をトントン数回跳ねてやっと元のバランスを取り戻した。



店の奥へ奥へと人々の間を擦り抜けるように進み、女将さんであろう女性に真田が一言手伝うと告げる。

なんで俺までと溜め息を吐きたくなったけど、この時代の人は嬉しいときに本当に嬉しそうに笑う。

俺はその笑顔にてんで弱いみたいだ…









そっからはもう言葉通りの天手古舞。


自分で言うのも何だけど、俺と真田が居て客引きにならない訳ないだろ!
ましてや俺は店の外に置かれた長椅子周辺に居るお客任されちゃって、人目に映るに決まってるよ…



女将さんわざとだよ!確信犯!!

俺のほう見て明智光秀みたいな笑顔したから、一瞬見間違えか幻覚かと思った。







結局店が落ち着いた時にはもう三時を回ってて、食べ歩きでもしてなかったら空腹で死んでた…つかれた…!

いつも二人で店やってるとかパワフル過ぎる。嫁さんが濃姫でもない限りは俺には絶っっ対無理だ!





「いや助かったよ、有難ねぇ!」

「しかし女将殿…こんなに頂いしまって宜しいのか?」

「いいんだよ!アンタ等のお陰で今日の売り上げはいつもの倍さっ」

『倍…どうりで客足が殺人的だ。
でも団子タダ食いに比べたら安いモンですよ、ごちそーさんです!』





食い終えた団子の串を翳しながら女将さんに笑顔で感謝の気持ちを告げたら、やっぱり色男だねえって褒められたぞー!

やーん!俺ってばマダムキラー?

たっぷり15本くらい食ったけど、手作りの団子ってもちもちでうまうまだなー!
団子の美味さに目覚めた!!

横では真田がまだ食ってる。食い終えた串が、ひーふー…30本くらいないかコレ。





『んまい?』

「幸せでござるぅ!」

『それは良かった。俺もナンパは出来なかったけど、いま幸せですよ』





ナンパはいつでも出来る。
でも真田とこうやって食い歩いて駄菓子屋や団子屋の手伝いしてなんて、滅多に出来た経験じゃない。

滅多どころか、最初で最後だっておかしくない。





「なんぱ?」

『女の子とお茶したかったの。』

「ぶほっ、破廉…!ごふ、ごっほ!」

『何してんですか…ハイハイお茶飲んで』





それからは真田がお舘様のこと、自分に仕えている忍のこと、ほんとに色んな話をしてくれた。

俺のことを少なからず信頼して話してくれてるのだと思ったら、ひどく後ろめたくなった。











『今日は有難うございました、真田さん。』

「礼には及ばぬ。
某こそ、楽しかったでござる!また逢おうぞっ」

『…はい、また。』





そっと小指を差し出す。



指切りは男女の約束の印。
女々しいものだなんて、わかってるよ。

でも真田は誠実な人だ。きっと約束は守るんだろう。






「‥‥約束でござる。」

『指切りげんまん、嘘ついたら針千本のーます…』





卑怯だけど、それだけ名残惜しいんだ。





「は、針を飲ませるでござるかっ?!」

『え、いや、これは』

「某、針を飲む訓練は行っておらぬ故…」

『あ、約束破るつもりなんですか?』





結んだ小指にきゅっと力を込めると、真田の動きがピタリと止む。



ほんとはもっと笑顔で別れて、笑顔で終われる男なんだよ、俺は。





『どうあっても口約束は口約束だし…要は守るか守らないか、それだけです。』

「この真田源二郎幸村の名に賭けて、約束は果たそうぞ。」

『へへ、さすが真田さん!お人好しだなあ…‥‥待ってますね、ずっと。』







一度結びなおして、小指は解けた。




すぐに背を向けて帰路についた俺は、真田がどんな顔をしてたかなんて判んないけど…きっと困ったよな。ごめんな。

何でこんなことしたんだろ。

答えに辿りつかない焦れったさに苛つきを覚えつつ、ただただ思うのは…









『約束、守ってくれよ。』






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