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マイラバー、多代
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時刻は九時ジャスト。



あれから小十郎さんの畑仕事を手伝おうとしたら、雑草と間違えて芽を抜きそうだからやめてくれと言われた。

暇だったから傍で見つめてたら、やれやれと言った風に手伝うことを許可された。
別にどーしてもやりたくて見てた訳じゃなかったんだけど、手伝った。

なかなか筋が良いと褒められた。





それが終わったら忙しく朝食の準備に取り掛かる小十郎さんに手伝いますかと言ったら、指を切るのがオチだからやめておけと言われた。

俺だったらそんなつまらないオチは作らない!もっと大胆なオチを提供してやると言ったら、台所から放っぽりだされた。





朝食の時間になって小十郎さんに飯は城下で食ってこようと思うと告げたら、食いモンを粗末にするんじゃねえと般若のような形相で胸蔵を掴まれた。

自分の野菜を食べてほしいんだろうなとは思ったけど口には出さなかったし、俺の分まで作ってくれるなら城下で食べる理由もない。

やっぱり美味いねぇと胡麻を擦ってみたら俺の野菜だからなと凄くいい笑顔で返された。





早速町に出くわそうと立ち上がったら、小十郎さんがおやつを与えてくれた。
小さい袋の中身には金平糖がぎっしりみっちり入ってた。

一個あーんで食べさせて、俺はやっと城下町へと降りていった。






そして、今に至る。





昔の人は早起きだなー…
こんな時間から人々が行き交ってる。

通勤ラッシュとかなのかなこの時間…
これだけ賑わうってのも凄い。昼時にもなればてんやわんやなんじゃないのか。



『呉服屋、定食屋…おお、駄菓子屋がある!』



小十郎さんの美味いご飯で満たされてるから何を食べる気にもなんないけど、駄菓子は買っとくべきだ。

駄菓子屋って意味判んないお面とか笛とかあるから堪んないんだよね!




『おばあちゃん、駄菓子ちょーだいっ。』

「へえ、そこの籠を使っておくんなはれ。」




端に重ねられてた手編みの籠を手にとると、コレは何だろうと好奇心の連続ですぐに籠がいっぱいになってしまう。

それには流石のおばあちゃんも驚いたみたいで、粒羅で皺くちゃな瞳をまんまるくさせた。





『おばあちゃん、額がデカいんだけど釣り銭大丈夫?』

「おんやまぁ一両小判。
ちょいと待ってておくりゃんせ、家から掻き集めて来んとならんですわ。」

『あ、じゃあ俺お店番しとくよ!』



これはかなり和むなぁ…

まさに駄菓子屋のおばあちゃんだなぁっていう人が良さそうで小さな背丈の老人は、申し訳なさそうに薄く白い眉毛を垂らす。

どうしたの?って首を傾ぐと、おばあちゃんが深々頭を下げてきたもんだから驚く驚く!




「えらいおおきに、すんまへんなぁお武家はん…」

『うわうわ!頭上げてよ、ねっ。
おれ武家の人間じゃないしっ!好きで店番やりたいの。だからやらせて?』

「ほいだら、今暫く宜しゅうおたのんます。」







町に出た初日から駄菓子屋の店番ができるなんてツイてるな俺。

おばあちゃんの腰掛けてた椅子にどっかり座り込むと、なんかもうやる気が漲って参りました。うおー!

うおぉぉ舘さぶあぁぁああぁ!!

うおぉぉおなごおぉぉおおぉ!!





『お姉さんお姉さん、飴ちゃんいかが?』

「50個ください!!!」

『わぁ嬉しいな!
ね、ね、何色がいいかな?』

「情熱の赤あぁぁぶあっ!!」



ちょっといきなり鼻血噴くのは遠慮してくれ。危なく着物につくとこだろ

笑顔で店に備わっていた懐紙を手渡し止血を促すと、おばあちゃんが一つ一つ丁寧に作ったであろう紙袋に真っ赤な飴玉を50個詰めた。

きっかりの代金を受け取り紙袋と交換したら、ここでとどめの一発じゃ!




『ありがとね。また来てくれるの、ずっと待ってるから!』

「最中20個ください!!」

『え、いいの?お姉さんだーいすきっ』



結局その後も綿菓子10袋にスルメを丸ごと5杯買って、出費に涙することもなく笑顔で去っていった。

わりと上質な着物を着てたし綺麗にお粧かしもしてたから、彼女はおそらくボンボンだと思う。
だからお金はいいとして、あんだけ食えばほぼ確実に肥えるな…可哀想に。






「お主、お多代殿のご令孫であるか?」

『あ、いらっしゃ…』




紅い。

さっきの姉さんの鼻血よりも遥かに紅い。




伊達の領地でなにしてんだ真田さん。





「某、最中を買いに参ったのだが、どうやら品切れのようでござるな…」

『品切れ?! あ、さっきの姉ちゃん…』



ヒィィすごい残念そう!
心の底から残念そう!!

きゅーんてしてるよどうしよう。すんごい助けてあげたいけど俺はどうしたら良いの…ッ!

こっ、これが母性本能ってやつなのか…





「あんれまぁ源次郎ちゃん。いらっしゃい、今日はお早いこって」

『ナイスおばあちゃん!
あのさ、最中ね今ね売れちゃってね、その』

「そげに心配なさらんでも…ホレ、ここにちゃあんと用意しとりますよ。」





おばあちゃんが手にしたのは駄菓子屋にしてはと言うと失礼な話だけど、とっても上質な木箱。
そしてその木箱を真田が持ってた瓜二つの木箱と交換して…‥って、おい?


定期購入してらっしゃるんですか。

え、なに?最中を?

木箱いっぱいの最中を?



いや言わせてくれ、止めてくれるな。





馬っ鹿じゃねえのおぉぉおぉッ?!!






「毎度おおきにねえ…
あぁ、お武家はん!えらいお待たせしてすんまへんどした。釣り銭でございます」

『いえいえこちらこそ、お店番楽しかったしありがとーゴザイマス!』

「その方、お多代殿のご令孫ではござらんのか?」

『こんなおばあちゃん居たら毎日でも店手伝うけど、残念ながら違うんだな。』




釣り銭を財布にしまって財布も懐にしまって、ふとおばあちゃんを見てみたら嬉しそうに顔を綻ばせてくれていた。

やっばいじゃないか!
たいっへん癒されるじゃないか!安らぐじゃないか!!!

そんな反応されたら俺まで嬉しくなっちゃって、子供が懐くのをそのままに、おばあちゃんの小さい身体をきゅっと抱き込んだ。




『おばあちゃん大好きだよー!
俺また手伝いにくるからっ』

「はっ…ははは、」

『真田さん何その笑い方、感じ悪いよ。』






「破廉恥でござるううぅううぅ!!!」






うおお、生破廉恥だ!!

いや、嬉しいよ。嬉しいけど…
見るからに可愛く縮まった皺くちゃのおばあちゃん相手に、破廉恥とか考えちゃうお前の節操のなさが破廉恥だと思います。

ごめんねつい嬉しくて、と笑いながら謝れば小っちゃな瞳がまた幸せそうに弧を描くし…‥




もう破廉恥で構いません。このおばあちゃんなら妻にしても良いです。




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