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可愛い子には旅させよ
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おはよう、雀さん。

おはよう、お天道さん。





と言うにはまだ早い午前四時に起床。ジジババには負けませんぜ!

抱き込んで寝た政宗さんも俺の胸に頬を寄せて規則正しい寝息を漏らしてる。
寝てるときまでキリリと眉を引き上げて唇を真一文字に絞ってるというのだから、全く油断も隙もない。



いや、もうむしろ油断しすぎだ。

縮こまって俺の腕のなかとかヤバい可愛い、ヤバいおかしいくらい可愛い!
女になんてどの角度からどう頑張っても見えやしないけど、何故こんなに可愛いのいい加減にして。





朝から何をトチ狂ってるんだ俺。
そうだ起きよう、もう起きる。





『‥‥ちゅ、』



政宗さんの額に緩く口吻けて、芋虫さながらもそもそとホフク前進で布団を出る。

いやだって可愛かったし。俺の所為じゃないよあの人が悪いんだ!

自らの心の叫びに共感するよう、うんうんと頷きながら音もなく襖を開き部屋を後にした。









「名前。」

『あらま、こじゅさん。おはようございます。
早起きすぎると思うんですけど… まさか、更年期ですか…?』

「おはよう。コウネンキが何か知らねえが、早起きはただの日課だ。

それより… お前のそのナリはなんだ。」



小十郎さんの言葉にはたと気付いたのは、俺の寝巻き用にもらった着流しの緩んだ帯にだらしなく開いた胸元。スリット入りですかとか思うくらいに太股が露出。

いやでも別に男だし、風呂上がりはパンツだけで居て普通だし…だらしないのが許せないんですよねその目線。
んもー!立派に世話女房してるな小十郎さん!




『あ、そうだ。着物借りられますか?』

「別に構わねえが…俺のじゃあデカ過ぎるな。客人用に仕立てたモンで構わねえか?」

『女物でさえなければ。』



俺の着流しの襟をくいと持ち上げ帯を結び直してやっと気が晴れたのか、承けた注文のため歩き出す小十郎さん。

待ってろとも言われなかったし頼んだの俺だし…着流しを直してもらったお礼を告げて、彼の後ろを金魚のフンみたいについて回る事にした。

たまに女中さんが通りがかって、年配の方には礼儀正しく、いいお年頃…要するに許容範囲の子には、渾身のキラキラスマイルでご挨拶。





おお、あの子可愛いな。




『おはよう。こんな早くから大変だねー』

「おはっ、おはようございます!
いえ、あの、毎日の事ですので…」

『ふふ、偉い偉い。今日も頑張ってね』



傷みのない黒髪を優しく撫でつけて二度目のキラキラスマイルを向けると、すぐ顔を真っ赤にして勢いよく頭を下げ駆け足に去っていく彼女。

いやー、こうでなくちゃなぁ!!

現時点おそらくこの世界にきてから一番清々しい顔してる自信あるね!





「ほう、お手のモンじゃねえか。」

『べっぴんさんに朝の元気を支給してんす。そして俺も貰うんす』

「俺にはくれねえのか?」

『小十郎さんは俺にあんな言葉もらったって嬉しかないでしょー?』

「ははっ、違えねえ。」







ルンルン気分で足取り軽く客間の隣にある小部屋に入り、衣装ケースらしき入れ物をあさり始める小十郎の背中をただ見据えた。

うんこ座りなんてしないでちゃんと正座してるよ。物腰がオカンだよ。

あーあ、今頃俺のオカンとオトンは何してんだろ…とか一瞬考えはしたけど二日目にしてホームシックとかなる程自立してない息子じゃない。
どうせ前田夫婦に勝らずとも劣らないイチャコラっぷりを発揮してるさ…






「ほらよ、五着ありゃあ十分だろ?」

『ありがとうございま…うわ、何げに重い。』

「武士が情けねえ声出してんじゃねえ。」

『NOT武士ですよ。確かにあっちの世界では気が向いたら刀振るっちゃいましたけど』


「未来でも刀が使われてんのか。志は受け継がれてくもんだぜ…」
『天然ぶちかましてるとこ申し訳ないですけど刀って逸物のことです。』




ジッポで子供みたいに瞳輝かせたり、アンダーネタに感心して一人また瞳輝かせたり…‥この人頭はキレるけど結構残念な一面もありそうだな。

しかもなんか俺が騙したみたいになってる。物凄く睨まれてるんだけど!

カタギな顔してないんだから勘弁してほしい…本気で怯えるんすけど…すみません小十郎さんすみません。





『ちゃんと刀もあるし職人もいますよ。』

「!」

『ただ使われてないです。戦はずっと昔に終わったし、銃や刀持てば犯罪になりますよって時代です』

「‥‥‥そうか。戦は、終わんのか」



少し嬉しそうに、でもやっぱり哀しげに小十郎さんは微笑んで、なぜか俺が悪いことした気分。

あぁ嫌われちゃう? 俺ぜんぜん悪くないのに嫌われちゃう?!
小十郎さんってどうしたら機嫌とれるんだろうな。真田幸村みたいに甘味で一発なら楽勝なの‥‥に、






『あぁッ!!忘れてたっ!』


「ッ?! まだ野郎共が寝てんだ、大声上げんじゃねえっ」

『ぷぷ、ビビッてる。』

「…死にたくなきゃ用件を簡潔に述べろ。まだ無駄口叩くようなら…斬る。」




無駄口で斬るって…アンタはどこぞの浅井長政だ。俺はこの世に蔓延る悪か!

とかいう突っ込みが思わず飛び出しそうになったが、小十郎さんの眼が本気なので急いで言葉を飲み込む。

短気すぎると思う。
ていうかこれ俗に言う逆ギレってやつだよね?!いや大声出したのは俺だから逆ではないか。







『城下町にいきたいです。』



とても簡潔。

ナンパをしに、とか無駄口は叩きません。

訊かれても言いませんけども。





「城下に?まぁ揃えてえモンもあるだろうしな…構わねえぜ。」

『おー、いい男は話が判りますな!』

「煽っても大した額は出やしねえぞ。」





そう言って懐から出されたのは一両小判。

差し出されたから一応受取りはしたけど…一両はあまりに大金。
一分銀でも相当な額なのに一両って…金銭感覚おかしいの? そこら辺の壺とか割ったら何両も出てくるの?




『その割にはかなり出ましたな。』

「ガキには寄り道がつきものだからな。余分に渡しといて損はねえさ」

『いや小十郎さんはかなり損あると思いますけど。むしろ損しかない。』

「いいから黙って支度でもしやがれ。取り上げられてえのか」

『ヤバァン!野蛮な人よっ!
へへ、ありがとうございます。大事に使わせていただきますっ』





かくして城下町への切符を揃えた俺は、いつか礼をしようと思いつつ小十郎さんに感謝感謝してその場を後に。着物を抱え政宗さんの部屋に戻ったのだった。



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