星に願いを



「コウちゃん誕生日おめでとおー!」
「···ん、ありがと」

302号室で、ささやかに開かれる牙介の誕生日会。
机の上には牙介の好物の甘いお菓子が沢山並んでいて、既に牙介の目はそのお菓子の山へと向いていた。


「それにしても貴斗のヤツぅー、コウちゃんの誕生日やっちゅうのにトリシメの仕事ばっかで、仕事とコウちゃんどっちが大事やねん!」
「花ノ下のことで、忙しいらしい」
「うへえ、やっぱそいつかあ。もうほんま厄災みたいなやつやなあ。···そういや、俺の彼氏も花ノ下キライキラーイって言ってたなあ」
「今月二人目の彼氏か?」
「うーん、厳密には、3人やな!」


そう言って流音は自分の顔の前で指を三つ立てて、眉を顰める牙介の前にずい、と突き出した。


「あ、そういやさぁ今日って七夕やん?せっかくやし、なんかお願い事する?」
「俺はなぁー···うん、今の彼氏と別れたいわ!」

と言って流音は大きな声で笑った。

「おれは、──山道とまた普通に話したい」

そう言ってから流音がぽかんと口を開けているのを見た牙介は、ハッと我に帰り照れくさそうに今の無し、と言って首を振った。


「コウちゃん健気すぎて心配になるわあ···」
「そ、そうか?」
「───···なあ、コウちゃん。知ってる?···健気っていうのはな、見方を変えるとそれはもう、ただの自己満足な自己犠牲なんやで」


自己犠牲。その言葉に、牙介は胸の中がすっと冷えていくのを感じた。


「頼むから、コウちゃんは俺みたいにならんといてな」


流音は眉を八の字にして笑うと「まあ、俺はもう終わったことやしどうでもええけどー!」と言ってジュースを一気に飲んだ。


「今日はほら、年に一度しか会えへんカップルが会える日なんやろ。ロマンチックやんなぁ」
「そうか?····俺は、年に一度しか会えないなら、いっそのこと一生会えない方がいい」
「へえ···コウちゃん、随分と悲しいこと言うねんなあー!····まあでも、ちょっと気持ちわかる気ぃするわ」


でも、折角なんやしロマンチックにいこうや!と笑う流音は、やっぱりどうも、今の俺には悲しそうに見えて。


「····流音。俺、頑張るから」

────だから、流音も頑張って


「──···ふふ、なんやな急に、ビックリするやろ」


もう既に、限界まで頑張ったコイツにいう言葉ではないかもしれないけど、

多分コイツは、それを望んでるから。


「よし!今から映画見ようや!きゃぷてんあめりかん」
「なんか、違うぞそれ」
「え?ちゃうの?」
「うん」
「ええーじゃああれは?アントニオマン」
「ふ、それはわざとだろ」

今は、この優しすぎる程馬鹿な友人に、甘えていてもいいだろう。





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