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※20110705拍手/高銀



悪酔い。



月が満ちているためか、今日の夜はいつもよりなんだか影が濃い気がした。酔いが回って覚束ない足取りで進むにはすこし不便である。蛙の鳴き声が少しうるさい、人気のない土手道。倒れ込んだのか座り込んだのかもう分からない粗野な動作で草むらに尻をついた。

「あー…月が綺麗だなあ…」

まんまるいそれは、黄色と言うより白だ。月が光っているせいか、星はほとんど見えない。梅雨明けの気温は夜でも少し高く、酒で火照ったからだには少し暑いくらいだったが、時折吹く風が気持ちいいので俺は目を細める。ああ、こんなことならもう少し酒を持ってくるんだった。月を見ながらひとり酒も悪くない。――と、そんなことを思っていたら。

「にいさん、暇ならちょいと一杯付き合ってくれねェか」

とさ、と隣に誰かが腰かけた気配がした。口調はともかく、聞こえた声に驚いて左隣に目をやると、そこには世を騒がすテロリストが酒瓶片手にこちらを見ている。

「高杉…おま、なんで」

今日来るなんて聞いてねえぞ。そんな視線をやると男は笑みを深くした。誤魔化す気だな。

「歩いてたら偶然会うなんて、運命かねェ」
「…さむいぞ、それ」

自分の肩を抱きながら男を半眼で見つめた。これが本当に偶然だとしたら、それは運命なんて綺麗な言葉じゃない。腐れ縁だ。腐ってんだ。男はそんな俺の態度に、愉快そうに笑うと、

「まあまあ。ほら、月見酒でもどう――って、おまえ」
「ん?」
「もうできあがってたのかよ」

それまでの笑顔はどこへやら、高杉は顔をしかめて、顔の真横まで持ち上げていた酒瓶を下ろす。俺が纏う酒のにおいに気が付いたらしい。

「でなきゃこんな夜中にこんなとこにいるかよ」
「…それもそうか」

はあ、と息を吐いて男は視線を空へと向ける。

「おい、酒。くれるんじゃねえのかよ」
「…てめえ、酔って寝たら置いてくからな?」
「だーいじょうぶだって。そんな酔ってねーから」

誤魔化すように笑ってみせると、高杉はいぶかしげにこちら見る。俺はさらに手を伸ばして酒を催促した。すると男は俺の手をじっと見つめ、それからそっと取る。なんだろう、と思っているとさらに指を絡めてきた。さすがに怪しんで高杉?と呼んだら、少しの間ののち、持っていた酒瓶を自らの唇に持っていき傾けた。俺は驚いて目を剥く。

「あのっ、ちょ、なにし――っんむ…!」

慌てて少し身じろぐと強引に腕を引かれ、唇がねっとりと重なる。同時につよい酒のにおいがした。顎を掴まれて唇を割られ、注ぎ込まれるそれ。喉の焼けるような感覚と、咥内を這う熱い舌に、肩が震える。

「ん、ふ、…っ」

飲みきれない酒が顎を伝い服の襟元から身体を這って落下していく。

「うう、う、…んっ、」

いつのまにか後頭部に回されていた手がやさしく髪を掻きながら撫でてくるその感覚にさえ背中が震えた。甘くて溶けるみたいな、口づけ。舌も喉も、心臓も、酒に焼けたように熱い。坑内の酒を飲みほしてもしばらく舌を愛撫される。そしてしあげのように唇を舐めあげて軽く吸い付くと、男のそれは離れていった。

「はあっ、てっ、てめえ…!」

濡れた口元と鎖骨のあたりを着物の袖で拭きながら目の前の男を睨みつける。愉快そうに目を細めてぺろりと舌なめずりをする高杉に、さらに心臓が痛いほど早鐘を打った。

「美味いだろ、この酒。高いんだぜ」
「あ、味なんかわかるか!!」
「じゃあわかるまで…」
「しねえよ!!」

全力で拒否をすると、男は舌打ちをした。いやしてえのはこっちだし。

「俺は普通に飲みたいの!このエロテロリスト!歩く猥褻物!!」
「接吻ごときでそんな反応してんじゃねえよ。思春期か。」
「うるせえ死ね!!」

こっちは酸欠なんだか酔いが回ったんだかわかんないほど心臓が痛いくらい鳴ってるっていうのに。暗くてよかった。顔の赤みもなんとかばれていないだろう。

「大体、月見酒しようってんのに、てめえが邪魔で見えねーんだよ」

ぽつりとなんとなしについた悪態に、高杉は視線を俺に向けた。とても自信ありげに微笑んでくる。

「見えてただろ?」
「…はあ?見えねえよ」
「俺は見えてた」

はっきりとした口調の高杉に俺は小さく首を傾げた。先ほど男は月を背にしていたはずなのに。どういうことだろうと思っていると、高杉は俺の耳元に口を近づける。酒のにおいに少しくらりとする。そしてその、低い声で。


「俺にとっての月は、てめえだからな」





悪宵












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拍手文かえよう→七夕近いナー→でも七夕ネタにすると七月以降拍手に置いておけなry→…よし。月見酒しよう。
と唐突に思いついて書きましたすみませんいつも以上にまとまりのない文章になった気がしますっていうか高杉さんのテンションが安定しない/(^p^)\ごめんなさい精進しまするるる





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