イカロスの翼 | ナノ

このまま時間を止めて


「ねぇ、最近ウェル様って優しくなったと思わない?」

その言葉にハーマイオニーはドキッとし、マフラーで口元を隠した。
噂好きのハッフルパフの下級生が通り過ぎるとロンがふんっと鼻息荒く愚痴り出した。

「グラキェースが優しくなった?そんなの天変地異の前触れじゃないか?」

そう思うだろ?と話しかけてくるロンに「そうね」とだけ返してハーマイオニーは廊下を足早に歩く。

「もしかしたらマルフォイよりタチが悪いかもね、何しろ純血の王族だから」

ロンに同乗するようにハリーも眉を寄せて反吐を吐くような声で話す。
2人は本当にドラコとウェルが嫌いだ。
いや、グリフィンドール生なら誰もが嫌いと言っても過言ではない。

ウェルはドラコみたいに自ら絡んできたり嫌味を言ったりはしないが、冷たい表情や態度を見て傲慢と嫌われている。

グリフィンドール生の中にもミーハーな女の子はウェルの容姿に惹かれてファンな子はいるが、表立ってそれを口に出すことはない。

ハーマイオニーは煩い心臓を静めるために深い溜息を吐いた。

この恋は誰にもバレてはいけない。

ロンにもハリーにも絶対に言えない。

バレたらきっと自分は裏切り者とグリフィンドールから嫌われ、彼もマグル生まれに手を出した恥晒しと言われ両親に幽閉されてしまう。

ハーマイオニー・グレンジャーの初恋は他の子よりも遅く、他の子のよりも残酷な恋だったが、彼女はそれを幸せだと実感した。

今まで探していた幸せをやっと見つけた気がした。

パーバティーやラベンダーがうっとりして話すのも理解できる。

人を好きになることが、こんなにも幸せな気持ちになれるなんて思いもしなかった。

*

「ウェル、見て」

恋仲になってから2人はより慎重に会うようになった。
図書室では人目がないとは言え前みたいに簡単にキスなんてしない。

それでも一緒にお喋りしているだけで幸せな気持ちになれるのだった。

「ハーマイオニー、それもしかして万年筆かい?」
「正解」
「凄い、俺初めて見るよ…触ってもいい?」
「いいわよ、羽根ペン代わりに使ってたんだけど…やっぱり羽根ペンがいいわ」

この前ウェルに壊されかけた羽根ペンを彼が直すと言い、修理してもらってる間使っていたらしい万年筆を彼は恐る恐る触った。

「使いかけでよければあげるわ」
「え…いいのかい?」

彼は嬉しそうに瞳を輝かせた後、申し訳なさそうに眉を下げ首を振った。

「やっぱりダメだ、俺、結局キミの羽根ペンを直せなかったし」
「そんなことないわ!傷も浅くなったし、前より曲がったのも元に戻ったもの」
「うーん…、そうだ!」

彼は自分の首からネックレスを外すと彼女の首につけた。
彼女はキラキラ光る月の欠片を見て思わず声を溢す。

「ウェル、これ貴方の宝物なんでしょう?」
「万年筆のお礼だよ」
「そんな、悪いわ、確かにつけてみたいって言ったことはあるけど…貰えないわ…」
「ならこんなのはどう?この万年筆を俺が使っている間、そのネックレスをつけててよ」

ね!と微笑む彼にハーマイオニーは何も言えず、キラキラと光るネックレスを幸せそうに眺めた。

貰うのは気がひける、でも貸してもらうなら、万年筆のインクが切れたら返せばいい、そう自分に言い聞かせながら彼女はネックレスを借りることにした。


このまま時間を止めて
prev / next
[ back to top ]

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -