「こんにちは」

”そいつ”はある日突然僕の前に現れた。

目を引いたのは、ゆらゆら揺れる白銀の髪と、キラキラ光る真紅の瞳。
なによりものすごく僕の好みだった。



- - -ドラコと杖ちゃん!01- - -

「主さまー!今日はどの呪文を覚えましょう?」

あろうことかこいつは僕の杖らしい。
最初は疑ったが、魔法界なら摩訶不思議なことがあってもおかしくはないだろう。
なによりこいつは僕のことを僕以上に知っていた。

「…おい、勝手に出てくるのはやめろと言っただろ!」

慌てて人気のない廊下に走って連れて行く。
現れたあの日からこいつは気が向いたらポンポン出てくるようになった。


「でも主さまはわたしを呼んでくれません」

「僕に杖と何をしろって言うんだ」

「わたしは主さまの杖です!主さまの望むことなら何なりと申してください」

「だったら静かに杖のままでいてくれ」

「それはいやです!」


本当にこの杖ときたら我儘だ。
やれ甘いものが食べたいだ、外で遊びたいだ、本当に僕を主として敬っているのかと疑いたくなるほど自分勝手だ。


「主様!わたしは外にいきたいです」

「僕は行きたくない、おい!まて!」

ぐいぐいと腕を掴まれ、外に連れ出される。

そしてこいつは身体が普通の女の形をしているのが今、僕の最大の悩みだ。
いや普通ならまだいい。
普通以上に成長、成熟した、といったらわかるだろうか。

今僕の腕に当たっている柔らかなモノにとても困っているのだ。

こいつ、見た目はチビの癖に。


「主さま!湖です!」

「あぁ…そうだな、おい絶対に飛び込んだりするなよ、湖の住人たちに喰われても知らないからな」

「あい、承知しました、わたしめは静かに遊ぶのです」

ニコニコと馬鹿っぽく笑って足だけパシャパシャと水を蹴る姿にため息が出る。

何分こいつは物知らずだ。

僕の杖ならもっと知的で物静かだと思うのだがこいつは真反対、知的の知の字もない。


「おい、僕の杖なのにどうしてお前はそんなんなんだ?」

「そんなん、とはなんですか!わたしはナルシッサ様が見繕って下さった由緒正しい杖ですよ!」

「その割には馬鹿だし、見た目もチビだ」

「失礼な!これは主様が望んだ姿です」

「僕が望んだ…?」

「あい、ただ身長の方は主様の心とリンクしてるので主様が成長するにつれてわたしめも成長するのです」

なるほど。
僕がまだ未熟だからこいつもチビなのか。
確かに見た目は僕の好みだ。

いや、まて

「おい、ならその…」

「?」

「僕は、そんなに大きくなくても…いいぞ…」

ちらりと視線を向け、たわわに実ったソレを指せば、奴は納得したようにポンと手を叩く。


「主様、これはわたしの本来の性能でして」

「お前の本来?サンザシに一角獣のたてがみに、…あぁ」

弾力性か。

「そうですっ!」

「うわっ、急に飛びつくな!」


こいつは馬鹿で我儘でどうしようもない杖だが、弾力性だけは悪くない、と思ってしまった。
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