ドラコとハッフルパフの女の子
今日は待ちに待ったバレンタイン。
イギリスではチョコを贈る習慣はない。
バレンタインは男性から女性へ花束やメッセージカードを贈るのが主流だ。
が、今年に限って日本式の女性から男性へチョコレートを贈るのが流行っており、ホグワーツの男子生徒は皆そわそわと浮き立っていた。
勿論ドラコもその一人で、ナマエと恋人関係になって初めてのバレンタイン。
期待は膨らむばかりだ。
が、彼女は普通の女の子は少し、いやかなり違う。
流行りなど知っているのだろうか?
ドラコは一抹の不安を覚えながらこっそりと彼女がいつもいる池の畔に向かう。
勿論彼はナマエに贈る花束を用意していて、もし彼女がチョコをくれなくても自分は彼女に花束をプレゼントしようと決めていた。
蜂蜜色の髪がふわふわと風に揺れている。
どうやら彼女は百味ビーンズを食べているのか、百面相を繰り広げては慎重に袋から美味しそうな色を選んでいた。
「ナマエ」
「あ、ドラコ」
ドラコに気が付いたナマエはニコリと微笑んで彼の元へと駆け寄った。
「どうしたの?」
こてんと首を傾げる愛しい恋人にドラコは少しだけ赤くなって、持っていたピンクの薔薇の花束を彼女に渡す。
「…今日はなんの日か知らないのか?」
「?」
「バレンタイン」
「あ、そっかぁ…!えへへ、ありがとう」
薔薇の花束を抱き締めて、ふにゃりと笑うナマエを見てドラコもつられて微笑む。
この様子じゃチョコは期待できないなと、わかっていたことだがほんの少し残念だという気持ちをしまってドラコは芝生の上に座った。
「今日は百味ビーンズか?」
「うん、探してるんだぁ」
「探してる?」
ザーッとハンカチの上に百味ビーンズを出すと、彼女はその中から選んでパクパクと口にしてはまた百面相をする。
何袋も開けたのか空っぽの袋が落ちていた。
「何をしてるんだ?キミは」
「百味ビーンズって、変な味は沢山あるのに普通のお菓子の味は本当に少ないの」
答えにならない答えを聞いて怪訝そうな顔をしながらドラコはハンカチから一粒とって口に運ぶがそれはナマエに阻止された。
「ドラコは食べちゃだめ!」
「なっ!」
いつもは必ずくれるのに、とドラコは不服そうな顔をして、パクパクと百味ビーンズを食べていく恋人を見ていた。
「んっ!」
「…どうした?舌でも噛んだっ」
言い終わる前に彼の唇は彼女の唇で塞がれる。
そして次第に甘いチョコの味が口内に広がった。
「…チョコ…?」
「えへへ、ハッピーバレンタイン!」
どうやら彼女はこれだけのために朝からずっとチョコレート味の百味ビーンズを探していたらしい。
「…普通にチョコを渡すという考えはなかったのか」
「そんなのつまらないよ!沢山の中から私が見つけたチョコ味の百味ビーンズだから意味があるの!」
よくわからない、が、彼女なりの愛で、彼女からチョコを貰ったのは間違いない。
その事実でドラコは幸せな気持ちになれた。
「まったくキミって奴は」
悪態を吐きながらもドラコは嬉しそうに頬を緩ませ、微笑んだ。
*
「おい、それはなんだ」
「?、ドラコから貰った薔薇の花だよ?」
「砂糖漬けにしたのか?」
「うん!紅茶とあうの」
枯らしてしまうより彼女に食べられたほうがマシか、とドラコは納得して彼女が作ったローズジャムをソッと紅茶に入れる。
贈った花束を食べられるのは初めてだったが、これも悪くないとドラコは心の中で思うのであった。