▼キミにはかなわない

初めて人を殺したのは何時だったか、日常的に赤い血を浴びて暮らす毎日を楽しむうちに忘れてしまっのか、それとも最初から気にしていなかったのか。
ボクは間違いなく後者だ。
なら女を初めて抱いたのは何時だったか、それも記憶に無い。
覚えていないのも仕方がない、いつも酷くうっとうしくて最後は殺しちゃう。
するとそれまでうっとうしくて仕方がなかった女にも少し愛着が湧くから面白い。
真っ赤に染まった彼女達が好きなんだ。
そんな歪んだボクが初めて好きになった生身の女の子がロア。
ロアの事ならどんな事でも覚えてる、初めて会った日も交わした言葉も、初デートの日も、初めて手を繋いだ日も、初めてキスした日も、初めて抱いた日も。
ロアと過ごす時間はまるで宝石みたいにキラキラしていて宝箱にしまっておきたくなる。
愛してるんだロアを。
頭から爪先まで、すべて。
髪の一本も他の男になんかあげたくない。
ロアがボク以外の男と話してるところを想像しただけで気が狂いそうになる。
ロアがボクと離れている時間何をしているのか、何を考えているのか、気になって気になって仕方がないんだ。
こんな気持ち初めてだ。
ボクの世界はロア一色でロアしかいらないのにロアの世界はボク一色じゃない。
こんなの狡いよね、ロアは卑怯だ。
ロアが生きている限りボクはいつもこんな思いをしないといけないんだ。
だったらいっそのことこの手でロアを殺してしまおう。
そうすればきっとボクもロアも幸せになれる。


*


「ヒソカ?」
「ロア、ボクのために死んでおくれよ
「どうして?」
「ロアが好きすぎて狂ってしまいそうなんだ
「狂ったらどうなるの?」
「キミを殺してしまうかもしれない
「でも今ヒソカは私を殺そうとしてるよ?」
「今はボクの意志でキミを殺そうとしてるけど、いつかキミを無意識に殺してしまいそうで恐いんだ
「ヒソカはどうして私を無意識に殺そうとするの?」
「ロアを愛してるからさ
「私もヒソカを愛してるよ」
「愛の濃さが違うんだ
「ううん、同じだよ。私はヒソカしか愛せないの」
「口でならなんとでも言えるよ
「うん、だからこれからはヒソカずっと一緒にいよう?」
「え?
「離れてるから不安になるんだよね、なら結婚しよう?」
「え?
「結婚して、子供が生まれて、成長して、二人だけになったら旅行したいね」
「うん
「ヒソカと私の赤ちゃん可愛いよね」
「もちろん、ボクとキミの子だよ?世界一可愛いに決まってる
「赤ちゃん楽しみ?」
「うん
「今私を殺したら赤ちゃんも旅行も全部出来ないよ」
「…うん
「そんなの嫌だよね?」
「うん
「じゃあ赤ちゃんも旅行も全部終わって、その時に私を殺して?だから首に突き付けたトランプしまって?」
「うん
「今日の夜ご飯カレーでいい?」
「うん
「じゃあ皮むき手伝って?」
「うん


ああ、やっぱりボクはキミにかなわない。



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