▼人形遊び
「ロア、今日も…美しい」
まるで壊れ物を扱うように抱き締め白い指先に口付けをし耳元で愛を囁かく、日常化したこの行為はもう当たり前の事になっていた。
「闇を写しとったような艶めかしい黒髪も、黒曜石のように輝く美しい瞳も…、お前はどんな宝よりも美しい…」
白磁器のような透き通る白い肌に手を添え、柔らかな薔薇色の唇に優しくキスを落とす。
いつからだろうか
いつから、こうなってしまったのだろうか。
ロアは虚ろに開いた瞳から涙を零した。
「どうした、何故泣く?…あぁ、ロアの声は消えたんだったな」
泣いている姿さえも愛しいと指先でそれを掬い、穏やかな笑みを浮かべ優しく優しく頬にキスをした。
「綺麗な肌だ…」
なめらかな肌をたのしむように手は首筋を這い、次第に服の中にも侵入してきた。冷たい手がロアの体を弄る。
「、…ッ…」
” 嫌 だ ”
その一言さえも私は言えない。
*
昔は私にも声があった。
その頃の私はただの流星街の子供で、年の離れた仲間がいて、生きるために必死だった。
それでも楽しかった。
毎日笑ったり、怒ったり、泣いたり
でも言葉を覚えるのだけは一番私が遅かった。
年が近いシャルやマチはとっくに覚えてるのに私だけ喋れなかった。
でも皆が何を言ってるのかわかったし、皆も私が何を言いたいのかはわかってくれた。
それでもやっぱり言葉を覚えたい私に熱心に教えてくれたのはクロロだった。
優しくて、強くて、格好良くて
私はクロロが大好きだった。
あの夏まで。
*
*
『ロア……ッ、…ロアッ』
『いやあッ!やめて…ッやめて、クロロ!やめてよ…ッ』
『何故受け入れない!俺はお前をこんなに愛してるのに…ッ』
『無理だよ…ッだってクロロは…ッ』
『愛してるんだロアッ』
『やめて…ッ!…”お兄ちゃん”ッ!』
『ロア…ッ』
『いやぁああああああ!』
そこから記憶は無い、覚えているのは布の破ける音と、私の叫び声と、嬉しそうなクロロ笑顔だった。
その日、私は声を失った。
話したくても喉からはヒュウと風が漏れるだけだ。
そんな私を見てクロロは喜んだ。
まるで人形のようだと。
「ロアのあの可愛らしい声が聞けなくなったのは残念だが、お陰でもっと素晴らしい人形が手に入った」
狂ってる。
実の妹を愛すなんて、狂ってる。
誰もがそうクロロに伝えてもクロロは笑うだけ。
皆私を助けようとしてくれた、
でもクロロはそれを許さなかった。
仲間のはずなのに、大切な仲間なのに
クロロは殺そうとした。
クロロが仲間を殺す所なんて見たくない、皆が傷付く所なんて見たくない。
だから私は人形になった。
私はクロロにとって妹ではなく人形なのだ。
「綺麗だ、 ロア」
いっそのこと感情も消えれば良かった。
今夜もクロロは不完全な人形を愛でるのだ。
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