▼優しい嘘つきの話
「げ、見ろよキルア。ロアのやつまたヒソカと話してるぜ?あいつやばいんじゃねーの?」
レオリオは眉を潜めてキルアに耳打ちする。
ハンター試験が始まってからヒソカはロアがお気に入りのようで暇があればちょっかいを出している。
ロアも嫌がらずにニコニコと相手をするので周りの人間はありえないとロアを異物のように見ていた。
もちろん警戒心の強いクラピカとレオリオはいくらキルアの連れだからってロアをいまだに怪しんでいる。
「ん?あぁ、ロアは世渡り上手だから」
「いやそんなレベルじゃないだろ…」
「あいつは嘘つきだからさ、あ、もちろん俺には嘘つかねぇよ」
*
キルアとロアは生まれた頃から一緒に育った仲である。
そして、半分だけ血のつながった兄妹でもあった。
ロアの母はシルバの愛人であり、キルアの専属乳母でもあった。ロアはキルアの遊び相手としてゾルディックに置かれていたが所詮は愛人の子供。
扱いは本妻の子供であるキルア達とは全く違ったがロアのその性格から嫌われるようなことはなかった。
「俺さ、5歳までロアの母ちゃんが自分の母親だと思ってたんだぜ?笑えるだろ?」
それもそのはずキキョウと会うのは半年に一度、多忙な身のため仕方が無いと言えど彼女はたまに会えばキルアの教育についてキーキーと喚く。
だからキルアはキキョウを嫌っていたし、ロアはそれを上手くカバーするようにキキョウに懐いていた。
もちろん裏ではあのババアやばいなんて陰口をキルアに言ったりするなど、多少裏表の激しさは見えたがロアは誰よりも優しい嘘を付ける人間だった。
もちろんそれは兄であるイルミにも。
イルミはロアの母を嫌っていたし隙あらば殺そう、キルアを奪おうとしたが母親もまた殺し屋の成れの果て、まだまだ若造のイルミなんて片手で倒せた。
ロアのことも忌々しく思っていたがロアが自分の立場をわきまえて、その上でイルミに懐くのでなんやかんや可愛がっていたのだ。
が、そんな日常も長くは続かず、キルアが10歳、ロアが15歳の時母親が死んだ。
病気だった。
かつて母親だった骨が入った小さな木箱を抱えてキルアは虚ろな瞳で壁にもたれ掛かるように座る。
涙は枯れて、今はただ思い出の詰まった屋敷で母と信じた彼女を懐かしんでいた。
「キルア、イルミが来るよ」
「ロア…わり…今日はイルミを相手にする元気ない」
ロアは母親が死んだというのに涙一つ流さず、淡々と葬儀を終えてキルアのフォローをする。
きっと母もそれを望んでいる。
「うん、任せて」
ロアはそっと扉を閉めて、屋敷の前でイルミを待った。
「やあロア、退いてよ。今日からキルアは拷問の特訓だ。あの煩わしい女がいなくなったから邪魔するものもいない」
「キルならシルバ様のところですよ、大切なお話があるんですって」
「親父と?嘘じゃないだろうね」
「まさか!私がイルミ様に嘘なんてつくわけないじゃないですかぁ、あ!お祝いしましょうよ!美味しいお酒飲みましょ!」
「うん。そうだね。もうこれからはいつでもキルと会えるし」
「そうですよ、私も、あんな恥知らずな女、大嫌いでしたし」
ニッコリと微笑むロアの頭を撫でてイルミは屋敷から離れていく。
それを聞いたキルアだけがそっと涙を流した。
「馬鹿だろあいつ?俺よりも母さんのこと大好きで誇りに思ってたのに…俺のために嘘つくんだぜ?」
二カッと眉を下げて悲しそうに笑うキルアにレオリオはダバダバと涙を流す。
「キル、レオリオ、なにしてんの?」
「ロアっ!俺を殴ってくれ!俺ってやつはお前を誤解してた!」
「え、なに。こわい」
ロアに抱きつこうとするレオリオを押し退けてキルアが抱きついた。
「触んな!ロアは俺のなんだよ!」
「あらあら、キルは何時まで経ってもお姉ちゃんっ子ね」
ふわりと笑った母親譲りの優しい瞳にキルアは胸の奥がキュウッと痛むのを感じた。
誰よりも優しい嘘つきの話。
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