▼君がいないと僕は

朝起きるといつも隣にいるロアの姿がなかった。

「あぁ、仕事か」


もう3日目だ。

慣れてもいいはずだがいかんせん日々の習慣でロアを探してしまう。

寝ぼけながら手を伸ばして抱き締めるのが好きなんだがな、この3日何もない虚しさを味わっている。

そもそも俺といるんだからあいつも働かないでいいんだが。まぁロアはそんなことも聞かないだろ。


「しかし、こればかりは困ったな」

ゴチャゴチャと汚れた部屋を見渡してクロロは溜息をついた。
何冊も積まれた本、食器、ゴミなどが部屋中を占領している。


いつもはロアが片付けてるからな、パクを呼んでやってもらうか?しかし…考えれば俺の身の回りは全部あいつがしてるのか。


「たまには自分でやってみるか」


*

掃除はしなくても死にはしないだろう。

積まれた本を戻そうとするが倒してしまい本が散らばり、食器は洗おうとするが割れて粉々、服は洗濯機の操作がわからず断念、掃除機はどこにあるのかわからない。


「意外と難しいものだな」

より散らかってしまった部屋を見てクロロは深く溜息をつく。慣れないことをしたせいかグウウと腹がひもじく鳴いた。


「食事にするか」

が、ここでまた問題だ。
この3日間を想定してロアがまとめて作っていってくれていた料理はすべて食べてしまった。

さて、どうするか。

これも自分でやってみるか?


クロロは冷蔵庫を開ける、中には色々な食材。


料理なんて自分でしたことないな、コーヒーくらいか?いやそれもほとんどパクやロアがいれたものか。

食べ物なんて食えればいいと思っていたが。

「…ロアの作るオムライスは美味かったな、ふわふわで」

作ってみるか。

クロロは見様見真似で戸棚や冷蔵庫から食材を集める。


確か黄色と赤だったな。ソースはデミグラス?ホワイト?いろいろあったが今日はケチャップでいいだろ。

中身は、米か。

米は…どのくらい入れるものなんだ?

具はなんだ、人参?玉ねぎ?肉は…


「頭が混乱するな、とりあえず何か飲もう…コーヒー、は豆のままだから…紅茶でも飲もう」

ポットに水を入れ湯を沸かす、こんなのは簡単だ。あとは茶葉をいれて…


「…どのくらい入れればいいんだ?」


…まあ飲めないことはないだろう、薄い色だと味がついてなさそうだ。もう少しいれてみるか。

カップに注ぐと紅茶の香りが鼻腔を擽る、なんだ、できるじゃないか。

砂糖もミルクも入れずにそのまま口に含むと思わず吐き出してしまった。


「な、んだ…この渋さ?分量を間違えたのか?」


あぁ、部屋は汚いし腹は空くしどうやら俺はロアがいないと駄目らしい。


「ただいま」その時ちょうどタイミングよく聞こえてきたその声に思わず安堵の笑みが浮かぶ。


「おかえり」

「どうしたの?キッチンなんかで…部屋随分汚れてるけど」

「すまない、片付けようと思ったんだが」

「ご飯食べてないでしょ?今急いで作るから待ってて、何食べたい?」

「ふわふわのオムライス」


クスリと笑ってロアは手際よく調理をしていく、あんなに手こずった紅茶もあっという間に淹れてもらい俺は土産のプリンを食べながらロアを眺めた。


「ロア」

「なぁに」

「結婚しよう」

「え?」

「気付いたんだ、俺はお前がいないと生きていけないらしい」

「それって家政婦雇えば済む話じゃないの?」

少しだけ怒ったようなロアを後ろから抱き締めて耳元で囁いた。すると彼女は赤くなり照れたように笑う。


此処よりロアの仕事先に近い所に引っ越そう、仕事は彼女の生きがいらしいので辞めさせはしない。片付けや料理もこれから教えてもらえば平気だろう。が、


俺はどうにもロアがいないと眠れないらしい。


目の下にできた隈をなぞられ思わず笑った。




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