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見てしまった。


‐‐‐‐‐‐

昼休み、ジュースを買いに行こうと自販機まで歩く。

うちの学園は、やっぱり人が多い。
この中であたしの知ってる人なんてきっと3%くらいしかいないんだろうなー。
いっぱい人がいたらその3%の人もわかんないよね。見つけられない。

あ、でも1人だけ。ぜったいに見つけられる自信のある奴がいる。


それは頭がピンクだからとかじゃなくって…


ほら、今だって見つけちゃった。
ふよふよと気まぐれに風に揺れるピンクブラウン。

志摩だ。


あたしは階段の向こう側にいる志摩に手を振ろうとした。
した、だけ。

できなかった。
だってあたしは、見てしまったから。


志摩と女の子が神妙な面持ちで話してるところを。


いつもあたしの前でへらへらしてる志摩があんな顔をするのは、あのときしかない。



告白、だ。




まあ志摩はモテる。
死ぬほど種をまいている(あ、そういう意味じゃなくって!)からそれを気に入ちゃう子も結構いるんじゃないかな。

もうあたしには、そーゆーのやってくんないんだけど。


なんとなく勝手に気まずくなったあたしはジュースを買いに行くのをやめて、クラスに戻った。


なんだかなあ。


志摩は結局始業ギリギリに帰ってきた。
隣の席だけど、なんか顔を見る気にならなくて机に伏せる。


「なんや?どないしたん神田川さん」


お腹でもいたいんか?と志摩は覗き込んでくる。

なんだ、いつもどおりじゃん。


「べつにぃーご飯食べたばっかりで眠いの」


ほーかほーかとうなずいて志摩も突っ伏す。


怒られるかなあ。怒られるのやだなあ。

そう思いながらも授業放棄を続ける。


「志摩はさ」


「んー?」


「今だれと付き合ってんの?」


別に好きじゃない。志摩のこと。
だってこんなアッサリきけちゃうんだもん。

好きだったら、ぜったいむりでしょ。


伏せたまま志摩はあたしのほうに顔を向けて、にやっと笑った。



「やっぱりさっきの見てたんやな〜。
 ほんま、色男は辛いで。」



「いや、そういうのいいんでほんと。」



志摩のこーゆーとこはめんどくさい。
大体さして色男でもない!
ちょっとかっこよくて、
ちょっと気がきくだけ。



「なんや冷たいなあ。神田川さんこそどうなん?」


「あたしはそーゆーのないなあ。
志摩と違ってある意味青春タイムを浪費してるかも。」


端っこの席だからか、この先生が適当なだけか、あたしたちの近距離おしゃべりはとがめられない。




「せやろなあ…なんやそんな顔してるわー
 

ま、俺のせいやけどなー」




ん?

どーゆーこと?



「ねえ、志摩今のってどーゆー…」



「志摩くん、神田川さん!
 さっきから聞こえないの!?
 もう出ていってよろしい!貴方達書きとり50回!!」


「えっ」


‐‐‐‐‐‐‐

あたしたちはまんまと教室を追い出されてしまった。

どうやら先生はずっと注意していたみたいだった。ごめんなさい。
ちょっとしょげるなー

廊下をぺたぺた歩く。外は暑そうだ。


「あーあー追んだされたのはええけど、書きとり50回メンドいなぁ。」


志摩は変わらずあくびをしている。
けど、なんか楽しそうだ。



「志摩なんかちょっと楽しそうだね?」



「あ、わかる?」



ほっぺが緩んでいる。
授業抜けれてそんなにうれしいかなー




「だって俺、今神田川さんと二人っきりやん。」




志摩はにやっと笑った。

あ、う、

なんか、恥ずかしい。

ついあたしは目をそらしてしまった。



あっ、そうだ。



「さっきの、どーゆー意味?」


「さっきのって?」


「俺のせいって、なに?」



あたしが首をかしげると、志摩はまたにやにや笑った。
そして、





「神田川さんの彼氏って俺やもん。」





えっ


急に志摩はあたしの腕を引っ張って抱きしめた。
え、ちょっとまって。
これは 一体?





「ちゃう?」





耳にかかる息にびくっとする。
でも、ぞくぞくする。




「い、つから」




「同じクラスになったときから。」





道理で、こないわけだ。青春。





「あれ?ちゃうかったかな?」





志摩は体を離して、あたしの顔をのぞこうとしたけど、
あたしはぐっともっと体をくっつけて


「ちがわない…」



誰彼かまわず名前で呼ぶ彼が、
あたしにだけゆっくりと距離を詰めていってた なんて。

知りませんでした。先生。





‐‐‐‐‐‐‐

みょーじよびに羨ましさを覚えるお年頃。



ゆっくり、ゆっくり。
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