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「りじ、ちょうさん?」

夕暮れの教室、塾がはじまる前のこの時間。
あなたは誰よりもはやくこの部屋に来る。



彼と、会うために でしょうねえ。



でも今日は生憎彼はすぐ来ませんよ。
私が用を言いつけてありますから。



ギッと音を立てて開けた戸に林檎さんはうれしそうに振り返り、私の姿を見て驚愕した。



可愛らしい瞳には疑問が浮かんでいる。




「おやおや、神田川さん。
 お早いですねえ。
 


 いつも通り。」




そう、いつも通り。


彼らがここで逢瀬を重ねているのは秘密だ。
私以外は知らない。

この学園は、私の体内のようなものだ。
腹の中でつがいが秘密をつつきあっているのなんてお見通しですよ。


そういうと、よほど私が意地悪な笑いを見せていたのだろう、

林檎さんは少し赤くなり、怒ったような顔をして、後ずさりした。




「あたしに何か、御用ですか?」




ああなんて、なんて愛らしい。
声には怒りが灯されているのに、
関係がバレていることには羞恥を感じている。


少し震える唇を噛みちぎってしまいたい。



私はぞくぞく上がってくる快感を押し殺し、いつも通りの態度で答えてやる。





「そうですねえ。
 貴女こそ、どうしたんですか?
 先程までは、ほら、この包みを大切そうに抱えてらしたのに。
 いいんですか?私がいただいても。」




薄桃色の紙袋を手のひらに乗せてみせる。

彼女はハッとした顔になり、紙袋を持っていた空っぽの両手を確かめて、私を睨む。



全く、林檎さんはいちいち私の嗜虐心を煽ってきますねえ。


そんなに意地悪してほしいんですか?




「理事長さんに差し上げるのじゃありません。
返して、ください。」




彼女は右手を差し出す。



ほら、やっぱり震えてるじゃないですか。


私って怖いでしょうかねえ。


こんなにこんなに貴女のことを可愛がっているのに。


ああ届かない恋心とはこれほど切ないものでしょうか。


切なくて切なくて、地獄の業火で炙られているようです。




とても、気持ちが良い。





「さて、どうしましょうか。
 ただでお返しするのは面白くない。
 何をしていただきましょうかねえ。神田川さん?」



私はたまらなくなって林檎さんの傍まで ゆっくりと 、それはもうゆっくりと、
歩いていき、腰を抱き寄せる。



「そんな、理事長さんが勝手に、っ」


くらくらするような子ども特有の甘い匂いに混ざる、林檎さんの匂い。


物凄く、美味しそうだ。





「残念なことに、貴女は今私に差し出せる代わりの物を何も持っていない。
 
 この、体以外はね。」



目を外さずに、顎にクイと、手かける。
林檎さんは驚きから、強気な睨みに瞳の色を変えて、




「やめてください。」




さっきからぐいぐいと手のひらで押しているみたいだが、
子どもの力なんて私にはなんの意味もない。

ただ触れている体温に興奮するだけだ。



私がこんなにも苦しく愛おしさを噛みしめているのに林檎さんは、しきりに戸のほうを気にしている。



ああ、片思いは辛いですねえ。


こんなラブシーンくらい、私だけ見てもらえませんか。





「おや?さっきからどうしたんですか?
 そんなにドアのほうを気にして。
 そろそろ来るんですか?プレゼントする相手。」





さっきよりも顎を強く掴んで、林檎さんの瞳に自分だけを映す。




「りじちょ、さんには関係ないです・・・」




苦しそうに言う林檎さんにもう、抑えが利かなくなってそのまま桃色の唇に噛みついてしまった。


乱暴に舌をねじ込んで、頬の内側をなぞる。




甘い。
脳がとろけそうだ。



しかし、次の瞬間 がり という音とともに舌に痛みが走って、思わず体を離した。
じわじわと口広がる、血の味。




なんて可愛いことを。


ぞくっと体が震える。



林檎さんは息を切らして、涙ぐんだ大きな瞳で私を睨んでいる。





「それ以上、ちか、づいたら、このことを、他のせんせ、に、いいます。
 こんな、ことしていいと、思って」





「おや?
 ご自分の、いや、貴方達の、背徳は棚に上げてそんなことを仰っていいのですか?
 この、私に。」





一言で顔を赤らめ、そして青ざめる。

悔しいですねえ。


あなたにそんなにコロコロ表情を変えをさせられるなんて。


泣きそうで、とても可愛らしい。




だが、


あまり一気に手に入れても、つまらない。



大人は過程を愉しまなければ。




今日はここらへんにしましょうか。





「ご自分の身の振り方をお考えになって、下さいね。
 私でよければ、いつでもご相談に乗りますよ。
 貴女の好む好まざるにかかわらず、ですけどね。」





私は机の上に袋を置いて、膝をついたままの彼女に背を向け、教室を出る。




向こうから走ってきたのは、奥村先生だ。


私を見つけると苦虫を噛み潰したような顔を隠さず、




「フェレス卿、頼まれていた件、済ませておきましたが…
 何故このようなところに?」




「クッキーを、食べたくなりましてね」


甘いクッキーを一口。




「それより、お急ぎだったんじゃありませんか?
 ご講義頑張ってくださいね。」




甘い恋と苦い秘密を



ゆっくりと、とろかして咀嚼しよう。



舌の上で貴女ごと。







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