lovers | ナノ
愛することは、。
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「おい、ライトニング」
エンジェルの不機嫌そうな声にライトニングは心を弾ませながら振り返る。
このライトニングという男は、
人の不愉快そうな素振りが何より面白いという不愉快極まりない人物なのである。
「なんだいエンジェル!今日という日は非常に気分がいい素晴らしい日だね!」
皮肉も意に介さず、エンジェルは深く刻まれた眉間のしわを更に深くし、言う。
「今朝お前の部屋から出てきた女…あれはメフィストのところの女だろう」
ああ、なんだそのことか。
「ああうん そうだよ。林檎ちゃんね。昨日の夜からメフィストのとこから借りてきたんだ。」
ライトニングは軽い口ぶりで肯定した。
エンジェルはメフィストのことを心から嫌悪、いや憎悪している。存在自体を許すことができない。
別にどうだっていいことだと思うけどね。
「以前にも借りたことがあるだろう。あの匂いはすぐわかる。
お前が借りるのは勝手だが、あの匂いをふりまかせるのはやめろ。
…まだお前にも匂いが付いているぞ」
「え、そう?」
腕に鼻を寄せてみるが、自分ではあまりわからない。
そもそもライトニング自身滅多に入らない風呂に昨夜入ったばかりだから自分の匂いもわからない。
彼女のかぐわしい匂いを思い出す。
「…まったく気がしれないな。あんなものを好んで使うなんて。」
はあ、とエンジェルのため息は深い。
ライトニングはまた面白そうに笑いながら言った。
「そうかな?いい穴だよ。
それはもう、ね。
エンジェルも試してみたら?
っていうか、フェミニストのキミどうしてそんなに嫌うのさ。
メフィストの、だから?」
ライトニングの問いに、エンジェルは窓に滴るしずくを見ながら不快そうに言った。
「気持ち悪い。オレは、非衛生的なものは近づけない主義だ。」
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「迎えにくるのが遅くなってすみません☆
食事をしていたものですから!」
メフィストは林檎の肩を抱いて、椅子に座らせる。
林檎は本部からメフィストの部屋まで自分で帰ることはできない。
鍵を持っていないからだ。
内部を歩かせること自体の許可はあるが、
あまり長居をするといい顔をされないことはわかっている。
だからメフィストがくるまで外にいた。
そのせいで 長い髪は冷え切っている。
「メフィスト、お風呂に入りたい。」
指先の感覚が室温で戻りつつあるが、それでも寒い。
「用意してありますよ。
ですが、」
メフィストは林檎の冷たい首筋に噛みつく。
林檎の香りをいっぱいに吸い込んで、目を閉じた。
「その前に、マーキングしておかないと。」
林檎が髪の芯から温まることができたのはもう随分経ってからだった。
ライトニングの相手をしたあとの、メフィストの暴力的な愛情表現は膝も立てられないほどの疲労感を林檎に与えた。
結果、林檎はメフィストの手伝いなしでは湯船に体を沈めることもできず、ただひたすら無力であった。
勿論メフィストはそのために行ったのだが。
優しくお湯を肩にかけながら、メフィストは愛おしそうに林檎を撫でる。
手をあげることもままならない林檎はゆっくり目を閉じてなされるがままになっているしかなかった。
「…こうしていると心が落ち着きます。
初めてあなたを抱いたときのことを思い出す」
何年前になるだろうか。
そのときも、抱いた、という表現はあまり適切ではないやりかたで行ったように思うが,
林檎はただ小さくうなずいた。
浴室に、林檎の香りが満ちる。
「いつまでもこの香りが、私を狂わせる」
グッと林檎の白い首に手をかけた。
林檎の視界がぼやけてかすんでいく。
これももう、慣れっこだ。
首に痛みが走って、お湯に血が落ちる。
意識を失うか、失わないかぎりぎりのところで急に正しい酸素を与えられた。
「っふ、けほっ」
呼吸を取り戻し、涙目になりながらメフィストを見上げると優しく笑っていた。
「まだまだ、殺してあげませんよ。」
「うん。しってる」
林檎は薄く、笑った。
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リリン、リリリリン
メフィストの部屋の、林檎直通電話が鳴る。
「はい
…はい。わかりました。10時に」
短く電話は切れた。
メフィストはゲームから目を離さずに問う。
「誰ですか?」
林檎はにこっと笑って、言った。
「アーサー・オーギュースト・エンジェル」
メフィストは、ふっと吹きだした。
「そうですか。それではおめかししなくてはいけませんねえ」
「うん」
二人の影はゆっくりと交わる。
定形化した過ちを繰り返すことでしか、愛し合えない運命ならば
何度でも。
endlos
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